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データ調査をしたら「生徒会長選挙実施はわずか7%」だった。千葉市の先導的取り組み


役員希望者が少ない、生徒会役員と部活との両立や一般生徒の巻き込みが課題

生徒会本部活動等の課題

中学生の生徒会役員自身が課題だと思っていることについても共有しておく。過半数以上が課題として捉え、最も多かったのが「生徒会役員を希望する生徒が少ない」の54%だった。上位については、次いで「生徒会役員が部活動や習い事で両立が難しい」の47%、「役員以外の生徒の巻き込みができていない」45%、「新たな取り組みの実施」36%、「放課後の活動時間の確保が難しい」30%、「生徒会役員が学習や行事で忙しい」22%、「自治的な活動が不足している」19%、「専門委員会が停滞している」18%、「既存の活動内容の整理」14%、「リーダー研修など人材育成」13%と並んだ。自治的な活動の必要性や、新たな取り組みを行うことの必要性を感じている役員がいる一方で、直近の課題としては、一般生徒の巻き込みや生徒会役員の育成、部活動との両立など役員の多忙改善の方が多くの役員が課題として感じているようである。

千葉市では、こうした市全体としての生徒会の課題共有だけでなく、市全体平均や生徒会活動が活発な学校と自分の学校を比較できるよう、受験ガイドのように一校ごとの生徒会活動実態も合わせて冊子にし、他校の取り組みや状況を比較、参考にできるようにした。こうした生徒会の実態調査やデータに基づくデータ集の作成配布は、生徒会活性化にとって非常に重要なノウハウの蓄積になると思っている。もちろん千葉市で実施した調査項目がベストではないかもしれないが、こうした取り組みをしていく中で、よりよくしていくことが重要だと考えており、この千葉市のものを元に、全国から意見をもらいながら改善していきたいと思う。

市内全55校の生徒会長が集まる生徒会交流会、さらに区ごとの情報交換会も実施

また千葉市では、2016年度からは、生徒会の新役員の人気が始まった直後の11月に、市内市立中学校全55校を対象に区ごとに生徒会役員3名と顧問に集まってもらう「中学校生徒会情報交換会」の開催を始めた。参加する生徒会役員と顧問には、現状共有のためにこの調査データをまとめた生徒会白書を全員に配布すると共に、ヨーロッパにおける先進的な生徒会活動事例や若者参画の先導的取り組みについての研修を受けてもらった上で、生徒同士、さらには生徒と顧問が一緒になりワールドカフェ形式で生徒会の理想について議論を行う。

こうした取り組みは、既存の生徒会活動についても他校の取り組みなどを参考にできるほか、世界の最先端の生徒会がどうなっているのかを意識することで、生徒会の本来行うべきことを考え共有することにもつながっている。現実的な生徒会活動の活性化を議論することも重要だが、とくにヨーロッパで行われている学校会議などの事例の紹介は、生徒たちにとって大きな刺激になっているようだ。

またこうした世界の最先端に向け、自分たちが具体的な改善をしていくにはどうすればいいかと考えていくにあたり、区内の生徒会役員と顧問が一堂に会し、理想の生徒会やあるべき姿、改善していくための策などについて「ワールドカフェ」を行うことで、生徒会活動に取り組む生徒たちにとっては、同じような立場で取り組み、同じような悩みを抱える役員同士の意見交換ができることで、大学教授や教員、専門家などによる研修以上に、同世代から学ぶことの方が大きかったりする。

こうした教育手法は、ヨーロッパ等では「Peer to Peer(ピア・トゥ・ピア)教育」と呼ばれ、複数の対等の者(Peer)同士が教えあう仕組みとして様々な場面で取り入れられている。高校生レベルでは、近年、生徒会のネットワーク組織は徐々に増えているが、中学レベルではまだほとんどなく、また生徒の意識レベルによらず、市内全学校の生徒会役員が対象になるという意味でも、こうした取り組みを教育委員会が直接やっていることの意味は大きい。生徒たちにとっては「ワールドカフェ」の手法自体も新しく、こうした手法を知ることで、その後、「自らの学校において、共有された他校の解決策を早速取り入れた」、「自分の学校でもワールドカフェをやってみた」という活動が報告されている。

また、後半に行う生徒と顧問が一緒になって話し合うワールドカフェについては、生徒側から「生徒と教員が対等に話せる場は他になく非常に面白かった」「先生たちも生徒会をより良くしようと悩んでいることが分かった」といった感想のほか、顧問の教員側からは「正直、中学生がここまで能力があるとは思わなかった」など、学校内における上下の関係でなく、学校の異なる生徒との斜めの関係性の中で、生徒の能力の高さや可能性を感じてもらう場にもなり、生徒会役員の研修と同時に、生徒会顧問にとっても貴重な場になっている。

千葉市においては、生徒会役員任期終盤である1学期末には、市内全55校の生徒会長と顧問110名が一堂に会し「生徒会交流会」を実施し、同様の「ワールドカフェ」の手法を用いながら、1年間の生徒会活動の改善点や現状の課題、今後の改善策等を話し合い、積み上げたノウハウを新年度役員に引き継ぎができるように取り組み始めた。

こうした交流会の中からは、各校の生徒会を活性化させていくための市全体として取り組むべき改善策や提案なども出てきており、今後は、さらにこうした市内の生徒会全体から市や教育委員会に対して生徒の意見をまとめて提案する場にまでしていければと考えている。一般社団法人生徒会活動支援協会では、主権者教育としての「新しい生徒会」を提案しており、生徒会の全国組織である「日本生徒会」の設置とともに、各地域地域における「地域生徒会」の構築も提案している。

今回は、こうした中で全国でも先進的に市全体の生徒会長が集まる「生徒会交流会」や、さらに細分化した地域でより幅広い生徒会役員を対象とした「区ごとの生徒会情報交換会」を実施を始めた千葉市の事例を紹介したが、こうした取り組みが先導的モデルとして、全国の自治体に広がっていけばと期待する。

【文】高橋 亮平/一般社団法人生徒会活動支援協会 理事長

投稿者プロフィール

高橋 亮平
高橋 亮平
1976年生まれ。明治大学理工学部建築学科卒業。一般社団法人日本政治教育センター代表理事、事業創造大学院大学国際公共政策研究所研究員、株式会社メルカリ経営戦略室政策企画参事、神奈川県DX推進アドバイザー、熊本市生徒会・校則見直しアドバイザー。中央大学特任准教授、明治大学世代間政策研究所客員研究員、市川市議、松戸市政策担当官・審議監、千葉市アドバイザーなどを歴任。国民投票法改正案につき衆議院法制審議会で参考人を務めるなど18歳選挙権実現の第一人者。AERA「日本を立て直す100人」や米国国務省から次世代のリーダーとしてIVプログラムに選出。著書に『世代間格差ってなんだ』(PHP新書)、『20歳からの社会科』(日経プレミア新書)、『18歳が政治を変える!』(現代人文社)ほか。