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教職員の狙いと実情:N/S高等学校インタビュー後編


2022年11月に生徒会を発足したN高等学校・S高等学校の目指す生徒会像をインタビューから紐解いていく。

インタビュー概要

N/S高の生徒会とは

N高等学校・S高等学校 は2022年10月に生徒会の発足を発表。同年11月に役員選挙が行われ、生徒会が発足した。会長・書記・会計に加え、N高と併設のS高での総代、地区ごとの代表をあわせた20名で構成されている。

インタビューイー

  • 石井 淳平さん(N/S 高等学校 生徒会長)
  • 佐久間 彩乃さん(学校法人角川ドワンゴ学園 ブランド統括マネージャー)
  • 川上 量生さん(学校法人角川ドワンゴ学園 理事)

写真左:川上さん、右:石井さん、下:佐久間さん

インタビュワー

  • 高橋 亮平 (代表理事)
  • 吉水 隆太郎 (事務局長)
  • 宮澤 直行(事務局)

インタビュー

生徒のリーダー論とサポート体制

高橋:選挙から2ヶ月経って、立候補した169人も含めて石井君みたいな方が会長になられて、堂々と話をされてたりいろいろやっていたりするところを見られて、期待通りの部分や、もう少し頑張ってもらいたい部分はあったりするんですか?

それとも川上さんの目指す生徒会を川上さんが語らず、むしろ考えてもらわなければいけないところなのかなど、教えていただけますか?

川上:生徒の自主性に任せる段階である程度うまくいかない部分が出てくることは織り込み済みです。やっぱり組織づくりや意思決定の大変さを経験してほしいということが生徒会を設置した狙いです。

なかなか20人の生徒の意見をまとめるのが非常に大変だということを、石井さんも生徒会長として今まさに体験していることだと思うんです。そういう意味では、今のところ想定通りの経過をたどっています。

吉水:石井さんは意思決定の難しさを常々感じながら運営を頑張っていると思うんですけれども、何か自分が意思決定をよりうまくして行くためだったり、組織作りをより磐石なものにして行くためにどのようなインプットをしましたか?

石井:最近ですと実際の行政機関の組織図を見ると何か役に立つかなと思って、岩波文庫の君主論を読んだりしています。リーダーがどうあるべきなのか、哲学的な方面から学びを得られればなと思っています。

吉水:ありがとうございます。石井さんが先人の知恵を借りながら色々勉強されてるのかなと思うんですけれども、その一方で20人の生徒会の皆さんと皆で組織を前に動かしていくというときにはチームワークも大事になってくると思います。

それにあたって心がけていることだったり、何か参考にしていることだったりとか、生徒会をサポートしてくれる方々からどのようなサポートを普段受けられているのですか?

石井:なかなか同じチームとして話し合っていく時に、ちょっと怖そうな人とはなかなかやりにくいものです。なので雑談を交えるなどして明るい雰囲気にするように心がけてはいます。

サポートという点に関しては、週に一回30分ほど職員と生徒会役員代表者が意見交換等させていただいているのが主なサポートです。それ以外に関しては、基本生徒で決めるっていうことで、あまり干渉されることはなく適度な距離感があるような形なのかなと思っています。

吉水:サポートについてお伺いしたいんですが、なるべく生徒主体として取り組まれているところもあると思うんですが、面会の時間とかに心がけているところだったり、生徒会が発足して2ヶ月経った時点での感触みたいなものがあればお聞かせください。

川上:生徒に考えて意思決定をしてもらいましょうという前提で進めていました。リモートでやっているということでなかなか難しい部分もあると思います。ちなみに生徒でうまく意見集約ができないことも想定して、あらかじめ学校側としてこういう何十項目かを生徒が決めていいよということを用意しています。

例えば、5月に幕張メッセで文化祭をやるんですが、そこでの企画だとか呼ぶ出演者とかをある程度決めていいよというのを生徒会の皆さんには提示しています。そして役員以外の生徒からの「こういうこともやりたい」という声も生徒会には吸い上げていって欲しいと思っています。

まだ2ヶ月ですので、打ち合わせしてもそうなかなか決まるものでもありません。生徒会としても生徒からの意見募集をすることに決めたそうですが、それがスタートするのもちょうど今週くらいからだったと思います。

石井:そうですね。1月中旬から開始となっていまして、Slackアカウントの関係や役員の中での意思決定も大変でした。まさに川上さんのおっしゃる通り、想定通りの結果になってるだろうなと思ってます。

生徒に委ねる意思と実際

高橋:川上さんがおっしゃられた、何十項目も生徒が決めていいという項目を作っているっていうところに関心があります。例えばイベント運営や企画には、度合いはどうであれ、それなりに多くの学校がやってきていると思っていて、むしろ最近関心が持たれているのがブラック校則と言われるような校則のルールメイキングに生徒が関わっていくことです。

N/S高においても校則のようなものがあって、それに対して生徒が意見を言うというのは項目の中に入っていて、内容を変えるということも可能なのでしょうか?

川上:まずN/S高には校則が一切ありません。むしろ校則をやめろというよりは、生徒自身に校則を作ってもらいたいと考えています。

僕たちはSlackでコミュニケーションを取っているんですが、Slack上でのコミュニティにおける誹謗中傷や利用上のルールというのは、生徒会が設定していいと伝えています。ただし、今のところはそういったものに対する要望は生徒会からは挙がっていないようですが。

高橋:そもそも生徒会のイメージ自体をぜひ変えてもらいたいなと思っています。まさにN/S高に期待しているところです。我々の中では海外、特にヨーロッパがこういった生徒会活動が進んでいると思っています。特にスウェーデンやドイツで生徒会を視察調査してきたんですけれども、彼らは川上さんが言われたように「生徒に決めさせていく」と言うんですね。

なぜかと聞くと、「学校の主役は生徒だからだよ」と当たり前に言われるんですが、日本の学校におそらくそういう学校はほとんどないでしょう。まさにこういったモデルをN/S高で作っていくと、どこかのタイミングで「N/S高だからできるんだよ」ということを多分言われると思うんですが、「そうじゃないんだ」「一般化もできるんだ」というようなモデルをぜひ作ってもらいたいなと思っています。

会長さんにはN/S高の生徒会を軌道に乗せるというのはもちろんですが、「日本の高校の新しい生徒会を作るんだ」という気持ちでやっていただければなというふうに思っています。

川上:僕たちはPDCAを回す唯一の学校をコンセプトしています。色々と現実的に可能なところは今後わかってくると思いますが、多分最初の年度ですので石井会長も相当苦労しているかと思います。

そういったところを順番にサポートして行きたいなと言うふうに思っています。最初は若干ほったらかしすぎたんじゃないかと思って反省しているんですが、もう少しサポートする人が必要なのかなと、彼らを見ていると思っています。

生徒会のコーディネート

吉水:川上さんのお話から、石井さんをはじめ生徒会の皆さんは川上さんとよくお話をされているのかなっていう風な印象を持ちました。川上さんや佐久間さんのような生徒をサポートする立場の体制はどのように整えられているのでしょうか?

例えば、学校に加えて学園の方々がいらっしゃるとかいろいろあると思うんですが、可能な限り教えてください。

川上:基本一人の専任スタッフがいて、学校側の代表として生徒会の要望や質問に答えるようにしています。そのスタッフは学校側で案件毎にある程度権限を持つ人間とミーティングをして、「何が可能なのか」、

それぞれの要望に対して「どこまでならやっていいのか」という学園内の調整をやっています。実際に、そういうやりとりの中で生徒がやっても良い項目を数十項目とりまとめました。

吉水:ありがとうございます。佐久間さんはどのようにご覧になっていましたか?


佐久間:私は生徒会経験者だったので、このプロジェクトをすごく楽しみにずっと見ていました。なので、トップに立つ人がとても孤独なことをすごく経験してるので、石井君は大変だなと思って見ております。石井君、頑張れ!(笑)

高橋:2万人のトップに立つ経験なんていうのは18歳でなかなかできるものではないので、本当にいい経験をされてるんじゃないかなっていうふうに思います。2万人の高校生の代表者っておそらくいないんじゃないですかね。

佐久間:まず2万人の高校がないですよね。

高橋:大学の自治会だと何万人となるのかもしれないですが、それと同じレベルのことを高校生から体験しているというのは非常に大きな経験だと思います。

佐久間:今回テレビ取材も入ってたので、私は密着でずっと取材対応させていただいてたんですけれども、どの子がトップになるのか全くわからないような状況の時にたまたまキャンパスにいろんな生徒がいて、石井君を取材いただきました。

選挙期間中から取材されていたんですが、本当に周りの仲間達から石井君は人望が厚くて頑張り屋でして、こういう生徒が会長になってくれたらいいなと思って応援していたら本当に1位で当選したので、やっぱり頑張りって認められるんだと感じました。

ただ、タスキを付けた子が1位になっちゃったので、逆に次からの選挙でみんなが付けてくるんじゃないかと心配しています(笑)たまたま1位の生徒が石井君なんですけれども、従来の選挙のイメージにとらわれない戦い方があってもいい、というような感じで見ておりました。

選挙がもたらした様々な効果

佐久間:けれども選挙って、ネットコースと通学コース、通学プログラミングコース、オンライン通学コース を合わせた学園挙げてのお祭りじゃないですか。私は学園の立ち上げから関わっていますが、そういう取り組みは初めてやらせていただいたんです。

なので、教職員も投票率を上げるために皆で応援したり、ホームルームでも積極的に声がけしてくれたりと、私たちもすごく楽しませていただいた今回の活動でした。今も暖かい気持ちで見守っております。

高橋:逆にそういったお祭りをやったり生徒会ができたりして学校の雰囲気が変わったりといったことでプラスの影響があったことは何かありましたか?

佐久間:面白かったのが「生徒会を発足します。この期間中で選挙活動をします。いつが投票日ですよ」みたいなアナウンスをしたところ、「そういう学校に入ったわけじゃない」「N/S高ってそういう学校だったっけ?」みたいなアンチがいきなり出てきたりしたところです。

そういった層にも石井君たちが戦ってくれたりですとか、論理哲学研究会という活動をしている生徒たちが独自のリサーチをして「こういう公約を掲げてます」とか「こういう地域にこんな生徒が多い」とかを自主的に分析してくれたり、候補者討論会を開いてくれたりしました。

しかも、論理哲学研究会のトップにいる生徒をキャッチアップしたんですが、その人はドバイに住んでるんですよ。日本に住んでいなくて時差がある中でもN/S高生として、うちの高校をよくしようとしてくれる生徒がこんなにいることがすごく嬉しかったです。こんな生徒の多様性を知ることができたのが個人的には面白かったです。

高橋:その方が本当の民主主義が学べる感じがしますよね。多くの学校で生徒会が「ごっこ」になっているのを我々は批判しているんですが、「ごっこ」じゃない感が凄くリアルで良いなと思いました。

佐久間:本当にごっこじゃないですよね。石井君、結構大変だよね。

川上:一番最初の「生徒会の活動が最初の任期満了の6月までにどこまでできるのか」というのはまだまだ分からないことがあるんですが、少なくとも選挙戦に関しては相当な盛り上がり方でした。

169人立候補したということも普通の学校ではやってないような選挙戦ですが、勝手に新聞実行委員が特集を組んだりだとか、有志が公約とかをまとめるサイトを作ったんですね。

佐久間:生徒が作った選挙ウェブの精度がめちゃくちゃ高いんです。私たちがお金を出して作ったサービスと対比されて見にくいって言われてしまうほどでした。

高橋:面白いですね。

川上:169人というのは僕らが想定していたよりもちょっと多すぎて、生徒の方からは「全員の所信表明の動画はとても見られない」という当たり前の意見ももらってしまいました。選挙制度も次回以降どういう風にするのかは考えなきゃいけないなと思っています。

高橋:ただ川上さんとしては、その制度を作るときに学校側だけが考えるんじゃなくて、生徒も入れて考えるっていうことですよね。

川上:もちろんです。


日本最大の生徒会が発足したN/S高等学校。日本一自由な生徒会はルールから作り上げることができる自由さと主体性を感じとることができた。
他方、投票率など生徒の参画意識の低さという課題は通信制に限らず生徒会の共通課題としてあげられる。生徒が参画してもらえる生徒会をどう作り上げていくのか。今後の活躍に期待したい。
【文】宮澤直行(一般社団法人生徒会活動支援協会 会員)
【構成】五十嵐誠(一般社団法人生徒会活動支援協会 運営委員)

投稿者プロフィール

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五十嵐 誠
2000年東京都生まれ。東京都立八王子東高等学校、信州大学工学部を卒業し、同大学大学院総合理工学研究科工学専攻水環境・土木工学分野に在学。高校在学時には生徒会会計役員として会計規定の改正と生徒の業務簡略化を図った。2017年度多摩生徒会協議会議長。現在は、生徒会と教員のより高度な協働環境の整備を目指して活動している。