自律的な市民を育む「生徒会活動」の再定義:東洋大学・猪股助教に聞く学校文化の変容と可能性
2026年1月30日、大分県立高田高等学校(大分・豊後高田:以後「高田高校」)が、視察で、一般社団法人生徒会活動支援協会の専務理事でもある東洋大学の猪股 大輝 助教を訪ね、生徒会に関する話を聞き、意見交換を行いました。
高田高校は、学校経営の理念としても生徒の意見が学校運営に反映される生徒会活動の支援を重要な柱の一つと位置付けており、今年度は「生徒会」をテーマに研修を進めており、その一環として行ったものです。
以前の記事でも報告したように、昨年11月に一般社団法人生徒会活動支援協会の理事長である高橋 亮平が高田高校の生徒会アドバイザーに就任したことで、生徒会に関する視察の協力依頼を受けて学校訪問とともに実現したものの一つです。詳しくは、合わせてこちらもご覧ください。
ヒアリングの冒頭で、伊藤 健一 高田高校校長からの現状共有では「大分県豊後高田市は「一市一校」という環境であり、小・中・高と多くが同じメンバーで固定化される中で生じる、変化へのエネルギーの乏しさがあると感じている。こうした現状に対し、生徒会活動を通じて“自分たちの力でシステムを変えられる”という成功体験をいかに提供できるか」と紹介されました。

なぜ学校で「自治」を取り組むのか:特別活動の歴史的意義
猪股助教は、まず「なぜ学校で教科以外の活動(特別活動)が取り組まれるようになったのか」という根源的な問いから説明しました。
民主主義の練習の場としての学校
特別活動のルーツの一つは、19世紀末から20世紀初頭のアメリカにあります。当時、多様な背景を持つ移民が流入する中で、彼らを「アメリカ市民」として育てるために、学校が民主的な手続きや自治を教える場となりました。
日本においては、占領期にこうした仕組みが導入された経緯があります。当時は社会に民主主義が未成熟であったため、学校内に「民主的な社会」を擬似的に作り出し、選挙や討議を経験させることが求められていました。
「指導」と「自治」のジレンマ
しかし、学校が生徒たちの人間形成をすべて抱え込むようになると、「指導論」が優先され過ぎる弊害も生じてきているといいます。
「この子たちはこれくらいしかできない」という発達段階に応じた管理が強まることで、活動が枠付けられていった側面があるとのことです。
猪股助教は、今こそ「生徒が主体となって計画し、社会へ返していく」という教科外活動本来の原理を取り戻す必要があると話しました。
教科と教科外の原理的相違:生徒を「編成主体」にする
猪股助教は、教科における授業と教科外の生徒会活動の決定的な違いを「教育課程の編成主体」という言葉で説明していました。
- 教科である授業: 教員が単元や教科書に基づき、内容や方法を決定する
- 教科外の生徒会活動や行事: 原理的には生徒自身が何をやりたいかを計画する主体となる。
教科外活動ゴールの1つは知識の習得ではなく、「自分たちで計画し、動けるようになること」そのものにあります。 社会生活の中で生徒が持ち込んでくる課題を元に、やりたいことを形にし、それをまた社会生活へ返していくプロセスを見通すことが重要と説明します。
学校文化を変える「行事」と「予算」の力
行事は「文化づくり」の分岐点
学校行事は、単なるイベントではありません。猪股助教によれば、それは「学校の雰囲気や学校文化」を形作る決定的な場であるとのことでした。
- 「この学校は自分たちの声を聞いてくれる、チャレンジできる」と思わせるか。
- 「どうせ先生が決めたことだ、何をやっても変わらない」と絶望させるか。
この分岐点が行事にあり、話し合いの文化が行事を経て醸成されれば、それは日常的な生徒会など自治活動へと波及していくといいます。
「予算」に生徒が関与することが、最大の主権者教育になる
対話の中で特に強調されたのが、生徒会による「予算編成・執行」の重要性でした。 猪股助教は、予算権限を生徒に持たせている先進的な事例を挙げて紹介し、以下のような効果を指摘しました。
- 生徒の広範な関心の喚起: 普段は生徒会活動に無関心な生徒も、部活動の予算配分には強い関心を持つことが多くあります。
- 社会の仕組みの理解: 生徒会予算を考えるうえで消費税の増税や物価高騰などの社会情勢の変化を考慮することは避けて通れないことから、自分たちの活動資金にどう影響するかを実感できることなどもあります。
- 合意形成と責任: 限られた予算をどう分配するか、他者と交渉し、ルール監査や領収書の管理などに基づいて執行するプロセスそのものが、高度な学びにもなります。
予算については、最終的な承認権は管理職が持ちつつも、プロセスを生徒に委ね、議論を喚起することが生きた主権者教育につながるとの話でした。

ホームルーム(HR)と執行部の分断をどう埋めるか
多くの学校で、生徒会執行部だけが「キラキラ」と活動し、一般生徒との温度差が生じる「分断」が起きているとのことでした。
HRは生徒会のベースである
猪股助教は、埼玉県立所沢高等学校などの事例を紹介し、生徒総会の議案書を必ずHRで議論させ、クラス代表が総会で議論する仕組みなど議論を行う重要性を話していました。
執行部が提示した案をクラスで検討し、代表者が中央で議論し、再びクラスへ持ち帰るといった循環があって、初めて生徒会は「全生徒のもの」になるとのことでした。
「見える化」による信頼構築
生徒の意見(目安箱など)に対する「レスポンス」の見える化も不可欠であるといいます。
- 「検討中」「回答済み」「教員へ伝達済み」といったステータスを掲示板等で公開するなど生徒に共有することが重要だといいます。
- 学校側がたとえ「できない」という回答であっても、その理由を誠実に返すことで、生徒は「自分たちの声が届いている」という実感を持つことができると話していました。
地域社会への参画:社会とつながるパイプとしての生徒会
地方の高校において、生徒会は地域と学校をつなぐ「パイプ」になり得ると話していました。
多世代交流と社会参画
猪股助教は、昨年度高校生・学校の部で日本生徒会大賞を受賞した宮城県泉松陵高等学校の事例をもとに、小・中・高校生と町内会など地域住民がフラットに話し合う会議の事例を紹介しました。
最初は「挨拶運動」のような小さな活動から関係づくりを進める中、徐々に「地域の課題」を話し合うフェーズへ移行していく道が開かれます。
例えば、高校生が地域の交通不便さについて「政策提言」を行うことなどもできるようになるかもしれません。あるいは、 行政や首長は、教員の訴えや大人の提言よりも、当事者である高校生の声の方が耳を傾けやすいということもありえます。
こうした「大人が自分たちの提案を聞いてくれた」という成功体験は、メディア等で可視化されることで、生徒のモチベーションは劇的に向上することなどがあります。
実践への第一歩:居場所づくりと規約改正
高田高校では現在、新たな生徒会活動の取り組みとして、次の2つの活動に取り組んでいるそうです。
- 空間づくり(リラックススペース): 図書館の飲食可否の検討や、スリッパのまま寛げるベンチの設置など、生徒自身の発案による「居場所づくり」は、自治の第一歩として非常に親しみやすい。
- 校則(内規)の改正: ジャンパーやTシャツの着用規程など、時代に合わなくなったルールを生徒自身の手で「自分たちの規約」として作り変えるプロセスは、ルールの意義を考える重要な機会となると話がされました。

【文】高橋亮平(一般社団法人生徒会活動支援協会 理事長)