生徒だけの予算交渉と三者協議で築く真の民主主義:「第10回日本生徒会大賞」受賞者インタビュー 青森県立三沢高等学校
2026年6月14日に行われた「第10回 日本生徒会大賞」決選大会。高校生・学校の部での日本生徒会大賞には初めて2校が選ばれました。
1校は、生徒自治という本質に向かうモデル事例、もう1校はこれまでの生徒会活動とは異なる新たな取り組みの事例でした。
今回は、本質的な自治の仕組みを伝統的に積み重ねてきた生徒会の取り組みとして受賞した青森県三沢市にある創立74年になる青森県立三沢高等学校(以下、三沢高校)の事例を紹介します。
生徒が年間700万円を運用する「自立した生徒会予算の編成と執行」
三沢高校生徒会執行部が担う最重要業務の1つが、年間700万円を超える生徒会予算の管理です。生徒会は「一般会計」と「三沢高祭特別会計」という2つの財布を持ち、執行部が自主的に予算提案から決定、管理、運用しています。
予算決定のプロセスも民主的で、各団体と直接交渉する「予算折衝」では各部活動や委員会から提出された要望に対し、執行部と各団体の代表者が膝を突き合わせて直接交渉を積み重ねて実施されていると言います。
提案資料に写る予算折衝の様子からは、電卓やタブレット、分厚い資料を広げ、真剣な表情で議論を交わす生徒たちの姿が見て取れました。執行部が作成した帳簿書類は監査委員による厳格な「監査」を経て、最終的に全校生徒が集まる「生徒総会」で審議されます。
生徒総会では、マイクの前に立った生徒から鋭い質問や意見が飛び交い、それに対して執行部が緊張感を持って答弁するという、まさに政治の世界の議会さながらの光景が展開されているようです。このように、大金を取り扱う上での不正を防ぎ、透明性を担保するための厳格なガバナンス体制が、高校生のコミュニティ内で完全に自立して機能している点は非常に評価できます。
また、予算を管理するだけでなく、例えば、1年生への食堂利用促進として、生徒会長印入りの「デザートチケット」を配布して無料でデザートを提供するなど、学校生活を豊かにする企画など工夫を凝らした取り組みが毎年新たに生み出されているようです。生徒が生徒会予算決定権を持つこの仕組みは、一般社団法人生徒会活動支援協会が進める「新しい生徒会」の重点でもあり、三沢高校はそれを高い次元で実践しています。

大人とも対等に渡り合う三者協議会「モスサミット」と、エビデンスに基づく対話
2つ目の柱は、生徒、教員、保護者が対等に議論を交わす三者協議会、通称「モスサミット(MOSS SUMMIT)」の取り組みです。新聞等でも大きく取り上げられたこのサミットは、校則改正や学校環境改善の強力なプラットフォームとなっています。「頭髪検査の是非」を巡るアンケートでは、反対が約47%、賛成が約29%というリアルなデータが浮き彫りになりました。
執行部はこの結果をすぐに突きつけるのではなく、丁寧なプロセスを踏みます。アンケート後に事務局会議や中央委員会で大枠を練り、モスサミットで教員や保護者の生の声を聴取します。その後、内容を各クラスに持ち帰る「クラス討論」を行い、再び中央委員会での決議を経て、最終的に「要望書」を校長へ提出します。こうした全校生徒を巻き込んでの民主的なプロセスを丁寧に行っていくプロセスは生徒会活動において非常に重要なポイントと言えます。
2025年度には「新制服についての要望書」を提出したそうです。在校生の経済的負担や公式行事での統一度に対する不安に対し、粘り強い交渉を重ねて「2・3年生の希望者に対する新制服着用の許可」という折衷案を勝ち取りました。
すべての要望が通るわけではなく、「軽音楽部の設立」や「頭髪検査の完全廃止」は未達成ですが、「女子更衣室の開放」、「新制服の着用」、「頭髪に関する校則の緩和」、「体育祭の日程変更」など数々の実績を積み上げています。感情論ではなく、エビデンスを集めて対話で制度を変革していくプロセスは高く評価できます。

年40号超の発行紙による「活動の見える化」と開かれた組織づくり
こうした複雑な民主的なプロセスを全校生徒に届けて巻き込むというのが3つ目の柱であり、それを支えているのが生徒会だより『Viva生徒会』の発行です。この広報紙は年間40〜50号という驚異的なハイペースで発行されています。
紙面では、中央委員会の報告や頭髪検査に関するクラスごとの賛否両論が細かくレポートされ、クラス討論の具体的な論点も提示されています。予算決議の際には写真付きの速報号を発行し、校内掲示板でリアルタイムに活動を「見える化」しています。この圧倒的な情報共有が、生徒一人ひとりに当事者意識を芽生えさせる原動力となっています。
また、三沢高校生徒会は組織づくりにもこうした全校生徒を巻き込んでいこうという生徒会のあり方が出ています。
生徒会組織は学校ごとに様々な特徴がありますが、役員全員を選挙で選ぶ学校も多いです。一方で三沢高校では、選挙を行うのは会長と副会長のみとしており、書記や会計などの執行部員は入部届を出せば誰でも自由に入ることができるようになっています。このオープンな仕組みにより、選挙へのハードルを感じつつも「学校の役に立ちたい」という意欲を持つ生徒が集まる好循環が生まれているそうです。

三沢高校生徒会の姿は、大人と対等に渡り合う「交渉力と民主的プロセス」、大きな予算を適正にコントロールする「ガバナンス能力」、そして生徒会を生徒会役員会にしない全校生徒を当事者とする「巻き込み力」といったものを高いレベルで実施しており、こうした取り組みの積み重ねが、校則改正等についても何度も乗り越え、自分たちの手でより良い学校生活を勝ち取ることにつながっていると感じました。
彼らが大賞に選ばれた理由は、ある面では古くからある伝統的な生徒会の一つのモデルであるものの、生徒会の本質とも言える社会の縮図でもある民主主義の実践そのものを非常に高いレベルで実践していることを評価したもので、多くの学校の生徒会活動のモデルになる取り組みだと思います。

以下、「第10回 日本生徒会大賞」決選大会後に、受賞者2名にインタビューしてきましたので合わせてご覧ください。
受賞者インタビュー

インタビュー参加者
※役職はインタビュー当時
<インタビュイー>
福士 果菜さん:生徒会副会長(3年)
種市 灯里さん:生徒会書記(2年)
坂下 美月さん:生徒会書記(2年)
高橋 麻由さん:生徒会書記(2年)
<インタビュワー>
高橋 亮平(一般社団法人生徒会活動支援協会 理事長)
顧問も介入できない「予算折衝」のリアルと独自の組織体制
一般社団法人生徒会活動支援協会 理事長 高橋 亮平(以下、高橋):
あらためまして、「第10回 日本生徒会大賞」高校生・学校の部での大賞受賞、おめでとうございます! 決選大会で「大賞」と名前を呼ばれた瞬間はどうでしたか?また、決選大会に参加してみて、会場の雰囲気や他校のプレゼンテーションを見てどんな印象を受けましたか?
青森県立三沢高等学校 福士 果菜 生徒会副会長(以下、福士副会長):
本当にびっくりしました!「まさか自分たちが……」という気持ちの方が強かったです。
他の学校の皆さんはとにかく発表の仕方がものすごく上手で、まずそこに圧倒されてしまいました。見せ方や話し方のクオリティが高くて、聞いているうちにどんどんプレッシャーが大きくなっていったのを覚えています。
高橋:皆さんの取り組みで注目した一つが、700万円以上にもなる生徒会予算を全て自分たちで何に使うかを決め、各部活動とも折衝して予算編成をしているというところでした。
僕も、かつて千葉県の公立校で高校時代に生徒会長を務めていて、皆さんの学校と同じように、予算を自分たちで審議して決定していたのですが、最近はこうした取り組みをしっかりと行っている学校もずいぶん少なくなってきたので、継続的にこうした取り組みをしっかりやっている学校があるということを嬉しく思いました。三沢高校では、こうした取り組みがいつ頃から行われてきたのでしょうか?
福士副会長:少なくとも10年以上前には今のベースとなる形があったようです。先輩たちからずっと伝統的に引き継がれて、今の「予算を自分たちで完全に管理する」という仕組みになっています。
高橋:皆さんは、こうした「予算を自分たちで完全に管理する」という仕組みのどこに一番のメリットや良さを感じていますか?
福士副会長:一番大きいのは、各部活動や委員会と予算の割り振りを決める「予算折衝」の場に、顧問の先生が一切介入していないという点です。これは完全に生徒と生徒だけの話し合いで進められます。
生徒会の会計役員と、各部活の部長が直接対峙して、膝を突き合わせて交渉するんです。これは部活の代表者にとっても、自分たちの部活動の運営やお金について深く知るきっかけになりますし、私たち生徒会側にとっても、どうすれば納得してもらえるか議論を尽くす必要があるので、お互いにものすごく勉強になっています。
高橋:先生が一切口を出さず、生徒同士でガチンコの交渉をする。素晴らしい経験ですね。
三沢高校生徒会は組織の作り方もユニークですよね。会長と副会長だけが選挙で選ばれて、書記や会計などの執行部員は「入部届」を出せば誰でもなれるという部活のようなシステムだとお聞きしました。その点も少し教えてもらえますか?
福士副会長:会長は1名、副会長は2名います。そして会計や書記といった執行部員は、本当に部活動のような感覚で加入してきます。新学期に1年生が入部してくると、基本的にはその時の希望に応じて、人数がだいたい半分ずつに会計と書記に分かれるような形になります。
高橋: 全体の部活動費の枠というのはどのように決めているのでしょうか?また、一番予算規模が大きいのはどの部活でどれくらいの予算規模なんでしょうか?
福士副会長:一番予算規模が大きいのは野球部ですね。道具代などがかかるので、野球部だけで年間30万円ちょっとくらいになっています。
生徒会の予算は、生徒総会で審議される議案書の中に、「予算編成の方針」という項目があり、そこに明記します。
過去に変更されたこともありますが、生徒会一般会計の総予算のうち「40%」を部活動費にあてていることが多いです。残り60%の中で大きな割合を占めている1つが文化祭(三沢高祭)の運営費で、約150万円が計上されています。その他は、各委員会の活動費、予備費、それから「活性化費」という枠があります。活性化費は、通常の部費では購入できないような高額なユニフォームなどを補填したりするのに使っています。
今年度は一般会計に余裕がなかったため、文化祭運営費を一般会計からは140万円出し、足りない10万円分に関しては、文化祭の特別会計から補填して予算を組みました。

議会さながらの「中央委員会」と省庁・大臣のような「委員会と委員長」
高橋:会計チームが予算折衝によって作った後に、最終的な予算案はどのように承認されていくのでしょうか?
福士副会長:予算折衝の段階から、必要に応じて会長や副会長も同席して、各部活の状況を把握するようにしています。会計がベースとなる予算案を作成するのですが、執行部全員で議案書の読み合わせを行いながら執行部案を作ります。その後、それを「中央委員会」に提出して審議にかけ、生徒総会にかけるという形になります。
高橋:中央委員会についても教えてください。一般的な学校だと、各クラスの学級委員などによる議会的な役割だと思うのですが、三沢高校ではどのようになっていますか?また、どのくらいの頻度で開催されているのでしょうか?
福士副会長:中央委員会は、昨年は年間16回開催されました。定期的な開催日が厳密に決まっているわけではないのですが、大きな行事の前などはかなり頻繁に開かれます。
中央委員会と各委員会は組織としては別々なのですが、中央委員会の場には、各委員会の委員長も全員出席することになっています。これは生徒会会則の規定にもはっきりと位置づけられています。その中で、実は三沢高校の場合、各委員会の委員長というのは、生徒会執行部に位置付けられます。
高橋:なるほど! その仕組みを聞くと、完全に国の政治体制と同じですね。生徒会執行部がいわば「内閣」で、各委員会の委員長は内閣を構成する「各省庁の大臣」。そして中央委員会が「国会(議会)」であり、そこに大臣たちが内閣として出席してクラス代表という国会議員からの質問に答えるってことですね。まさに社会の縮図そのもののガバナンス体制が、校内で綺麗に成立しているわけですね。面白いですね。
青森県内で唯一無二の存在、しかし一般生徒の反応は……
高橋:こうした三沢高校の予算を生徒だけで決めるという取り組みや、三者協議会の取り組みというのは、生徒会の進んだ仕組みだと思うのですが、青森県内ではこうした取り組みを行っている学校が多いのでしょうか?
青森県立三沢高等学校 種市 灯里 生徒会書記(以下、種市書記):
私たちの地域では、近隣の7つの高校が集まるリーダー研修会があります。そこで他の学校の状況を聞いたことがあるのですが、私たちのように「三者協議会」までしっかりと機能させて実施している学校は、他には一つもありませんでした。
高橋:やっぱり皆さんの学校だけが、頭一つ抜けてすごい取り組みをしているわけですね。
そこで気になるのが、一般の生徒たちはこうした三沢高校の生徒会の取り組みをどう受け止めているのかです。生徒会役員の皆さんにとってはこれらが大きな誇りになっているんだと思いますが、生徒会に関わっていない一般の生徒たちも、「うちの学校の生徒会は凄いんだぞ」ということを誇りに思ったり、学校のブランドとして認識したりしているのでしょうか?
種市書記:いえ、一般の生徒たちは「全然」そんな風には思っていないと思います(笑)。
今回、日本生徒会大賞をいただいて初めて、「あ、私たちの活動って外から見たらそんなに凄いことだったんだ」と気づいたくらいで……。
私たちにとっても、一般の生徒にとっても、この仕組みがあることが完全に「当たり前」の日常になってしまっているんです。普段の学校生活の中で、一般の生徒から「生徒会って凄いね」なんて言われることはまずありません。
高橋:例えば、皆さんもそうだったと思うのですが、中学生が三沢高校への進学を希望する理由として、「生徒会活動が盛んで自治が進んでいるから、この学校で生徒会をやりたい!」というような声はないですか?
種市書記:それも全くないですね。そもそも、これまで外部に向けて自分たちの生徒会活動をアピールしたり、宣伝したりする機会がほとんどありませんでした。だから、今回の受賞のニュースを見て、校内の生徒たちも初めて「うちの生徒会ってそんなことやってたんだ」と具体的な内容を知ったレベルだと思います。
高橋:それは非常にもったいないですね! せっかくこれだけ価値のある実践をしているのだから、もっとみんなに知ってもらいたいですよね。
種市書記:はい!早速、生徒会だよりの『Viva生徒会』に「日本生徒会大賞を受賞しました!」と写真付きで大きく書きました。先生方からすごく褒められ、普段はあまり生徒会活動に直接関わっていないような先生からも「すごいね!」「おめでとう!」と声をかけてもらえて、それはとても嬉しかったです。
執行部のメンバーが個人のInstagramのストーリーで「生徒会大賞を受賞したよ!」と投稿したんです。そうしたら、それを見た他校の友達やクラスの友人からも「すごいじゃん!」とか「おめでとう!」というLINEやメッセージがたくさん届きました。そうやって間接的に知って驚いてくれた友達は結構いましたね。

「伝統の文化祭」と、生徒の手で変革したアカデミック部門
高橋:多くの学校の生徒会に「生徒会の自慢は何ですか?」と聞くと、「文化祭のクオリティがすごい」とか「体育祭が盛り上がる」といった行事の話が返ってきたりするのですが、皆さんは、最初にそうした行事の話ではなく、予算管理や三者協議会という自治の仕組みについて真っ先に紹介されるのもいいなと思いました。ちなみに、行事自体はどのような感じなのでしょうか?
種市書記:私たちの学校は、文化祭もものすごくクオリティが高くて自慢できる行事です!
先ほどお話しした通り、予算が約150万円あるのですが、そのうちの約60万円を「ステージ(舞台設営)」のためだけに投入しています。外部の専門業者の方に来ていただいて、本格的な特設ステージを体育館の中に組み上げるんです。さらに、プロの音響スタッフさんにも入ってもらって、照明やマイクの音響なども完璧にプロの仕事で演出してもらいます。
高橋:文化祭の企画や運営のルール、方向性などはどのように決めているのですか?
種市書記:文化祭のために組織される「文化祭実行委員会」があり、そこを舞台に実行委員のメンバーと私たち生徒会執行部が何度も話し合いを重ねて決定していきます。
高橋:文化祭の内容について、ただ楽しむだけでなく、何か生徒主導で大きく内容を変革したような実績はありますか?
福士副会長:昨年の文化祭で、大きな変革への挑戦がありました。三沢高校の文化祭には伝統的な枠組みとして、1年生が「アトラクション部門」、2年生が「アカデミック部門」を担当していました。
しかし、これまでの2年生の「アカデミック部門」というのは、日頃の総合的な探究活動の成果をただ真面目にプレゼン資料にまとめて発表するだけのもので、生徒たちからは「正直、文化祭の出し物としてはあまり面白くない……」という不満や課題感がずっと残っていたんです。
そこで、「これじゃダメだ。同じ学術的な内容であっても、もっとエンターテインメント性を融合させた『学術的かつ楽しめる展示や企画』に転換しよう!」と、文化祭実行委員会と執行部が一緒になって新しい方向性を考えました。そして、「今年のアカデミック部門はこういう方向性で変革します」という基本方針を、中央委員会と生徒総会に正式にかけて、全校生徒のクラス討議を経て承認をもらい、実際に形にしました。
終わった後にも「今回の変更はどうだったか」というシビアな振り返り会議を実行委員会と執行部で行い、次年度へ引き継いでいます。
高橋:単に前年を踏襲するのではなく、生徒自身が課題意識を持って、クラス討議→中央委員会→生徒総会と民主的な手続きを行いながら伝統をアップデートしているというのはいいですね。
学校によっては、生徒が「こういう風に変えたい、新しい挑戦をしたい」と言い出すと、先生たちが「前例がないからダメだ」「好き勝手させるな」と言って潰してしまうケースもあります。三沢高校の場合、生徒がこういう提案をした時の先生方の受け止め方はどうですか?
福士副会長:もちろん、中には「本当に大丈夫なのか」と心配したり反対したりする先生も一定数はいます。でも、全体的な雰囲気としては「まあ、そこまで生徒たちが考えて言うなら、やってみればいいんじゃない?」という感じで、手放しで大賛成とまではいかなくても、私たちの挑戦を温かく見守り、信じて任せてくれる先生が多いと感じています。
三者協議会と職員会議の役割分担と位置づけ
高橋:それは良い関係性ですね。生徒がきちんとエビデンスを持って対話しているからこそ、先生方も信頼してくれるのでしょうね。このように生徒総会などで決まった文化祭の方針などは、どのように先生や学校側に伝達される仕組みになっているのですか?
福士副会長:基本的には、生徒会の顧問の先生が、私たちの決定事項や要望をまとめた資料を持って、職員会議に諮って回してくれる仕組みになっています。
高橋:なるほど。そういったプロセスには三者協議会は使わないのですか?
福士副会長:「モスサミット(三者協議会)」では意思決定などは行わないことになっています。どちらかというと学校の「校則」の改正や、女子更衣室の開放といった、学校生活の根本的な環境改善に関わる大きなテーマを扱う場として位置づけられています。
通常の提案は職員会議に回すのですが、そこで「先生側の都合で却下されてしまったもの」や「どうしても意見が折り合わずに行き詰まってしまったもの」について、最終手段としてこのモスサミットの議題にすくい上げて、教員・保護者・生徒の三者で直接議論する、というステップになることが多いです。
高橋:なるほど。そのモスサミットという組織自体は、例えば生徒会規則の中に「三者協議会を設置する」といった文言が刻まれていたりなど、学校の公式なルールとしてどこに規定されているのですか?
福士副会長:生徒会則には明記されていませんが、三沢高等学校三者協議会要綱というものが定められており、学校のホームページにこの要綱と共に、目的や約束などを公開しています。
モスサミット
https://www.misawa-h.asn.ed.jp/moss/moss.html三沢高等学校三者協議会要綱
https://www.misawa-h.asn.ed.jp/moss/taikai/yoko.pdf
高橋:この三者協議会では、具体的にどのような話し合いがされているのでしょうか?特に校則の改正についての取り組みなどもあれば、詳しくお聞きできますか?
福士副会長:昨年、私たちは全校生徒へのアンケートをもとに、「頭髪検査を完全に廃止してください」という要望書を当時の校長先生に提出しました。しかし、結果から言うと、校長の異動などもあり、頭髪検査の「完全廃止」という回答にまではまだ至っていません。
ただ、モスサミットの場で私たちが「検査の際に、先生が急に体に触れてきたりする距離感の近さに、多くの生徒が強い精神的苦痛を感じている」というリアルな実態を訴えたことで、先生方の意識が大きく変わりました。過度な身体接触を伴うような、行き過ぎた威圧的な検査は事実上なくなりました。
頭髪検査問題については、今なお先生方と生徒会で話し合うべき大きな問題が残っているので、生徒会としても、日頃から要望を出したり、モスサミットという公式な対話の場を使ったりしながら、解決に向けて取り組んでいるところです。

大人たちの壁に、民主的なプロセスで挑む生徒会
高橋:お話を聞いていると、職員の中にも色々な考え方の方がいらっしゃるんですね。気になるのがもう一つの主体である「保護者(PTA)」のスタンスです。一般的に、こうした校則緩和の議論などでも保護者が生徒の味方になってくれるケースもあると思うのですが、三沢高校の保護者の皆さんはどういう意見や立場なのでしょうか。
福士副会長:私たちの地域の場合、保護者の皆さんは生徒の味方というよりも、むしろ「先生方よりもさらに厳しく指導してください」というスタンスの方が多いです(苦笑)。
実際、モスサミットの場に出席すると、保護者の方々から「学校の規律を乱すな」「もっと厳しく身なりを取り締まってほしい」と、私たち生徒会側がめちゃくちゃボコボコに批判されたこともあります。保護者の皆さんが完全に先生方の管理教育側の味方に立ってしまうこともあるんです。
高橋:なかなか一筋縄ではいきませんね。三者協議会であるモスサミットの運営の「仕組み」についてももう少し教えてください。モスサミットの前に生徒・教員・保護者による「事務局会議」というもので議題を調整しているという話がありましたが、この事務局会議には誰が出席しているのですか?
福士副会長:まず、モスサミット全体の参加者からですが、生徒代表が9名以下となっており、生徒会正副会長、執行部及び中央委員会から選出された生徒で構成されます。父母代表は7名以下で、PTA正副会長、各学年および健全育成・母親・広報委員会の正副委員長から選出された保護者。教職員代表は3名以下で、校長・教頭・事務長、および主任から選出された教職員がメンバーになっています。
この中から、事務局会議のメンバーは、生徒会側からは会長と副会長。学校側からは校長先生と生徒会顧問の先生。そして保護者側からはPTAの代表の方が出席し、合計7〜8人の少人数で開催されています。
高橋:その事務局会議の場で「今年のモスサミットでは何を議題にするか」というテーマ自体を選定するわけですね。その議題のタネとなる素材はどのように集めるのですか?
福士副会長:毎年秋頃に、生徒・教員・保護者の三者に対してそれぞれ「学校生活に関するアンケート」を大規模に実施します。そのアンケート結果で多く集まった意見や課題を見つめながら議題を選びます。基本的には、生徒側から2つ、教員側から、保護者側から……というように各主体が気になるテーマを持ち寄ってすり合わせます。
時には校長先生の方から「今、学校としてこれが気になっているから議題にしてほしい」と提示されることもあります。事務局会議の段階では、お互いの意見を尊重し合う雰囲気があるので、比較的いつも平和に進み、だいたい2〜3つのテーマに絞り込まれます。
そうして議題が決まったら、私たちは次に「中央委員会」を開きます。ここで何をするかというと、モスサミットの当日に、全校生徒の代表として教員や保護者に対して直接意見を述べる「提案者(スピーカー)」を、中央委員や執行部の中から広く募集するんです。
高橋:モスサミットの場自体には、「何かをその場で正式に決定する権限」はあるのでしょうか?
福士副会長:いえ、「モスサミットはあくまで三者が対等に話し合う対話の場であり、何かを決定する決議機関にはしない」という規定を入れています。ただ、決定権はないものの、モスサミットでの話し合いには事実上の強い「強制力」や「影響力」が伴います。
モスサミットには、地元のケーブルテレビも取り上げてくれたり、新聞記者が取材に来たり、多くの外部のオブザーバーが周囲で見守る「完全オープンな場」として開催されています。また、当日の発言はすべて文字起こしして公式な記録として保存しています。
高橋:モスサミットが終わった後の「クラス討議」のプロセスについても教えてください。モスサミットでの議論を終えた後、どのように全校生徒へフィードバックしていくのでしょうか?
福士副会長:モスサミットでの大人の意見や教員側の感触を持ち帰った後、執行部で「このような内容で校長先生に正式な要望書を提出しようと思います」という要望書の原案を作成します。
そして、その原案を持って各クラスの学級委員がホームルームの時間を使い、「クラス討議」を実施します。「この内容で要望書を出しますが、全校生徒の皆さん、これで本当にいいですか?」と全校生徒に諮るんです。
そこで各クラスの皆から出た意見や修正ご意見をもう一度中央委員会に集約し、最終的な決議を経て、正式な「要望書」として校長先生に提出するという流れになっています。
高橋:クラス討議を要望書提出の直前に配置して、全校生徒が最後の最後まで意思決定に関われるようにしている。この一連のプロセスは、非常に民主的な仕組みになっていると思います。今日は皆さんと本音でたくさんお話しできて楽しかったですし、現場の学校の課題なども分かり勉強にもなりました。
本日はお忙しい中、長時間ありがとうございました。また、あらためて「第10回 日本生徒会大賞」受賞おめでとうございます。
【文】高橋亮平 (一般社団法人生徒会活動支援協会 理事長)
