国際バカロレアのさいたま市立大宮国際中等教育学校を視察――全校生徒を主役にするため「自治の解像度」を高める
2026年1月30日、大分県立高田高等学校の校長や生徒会顧問などによる視察チームは、東洋大学の猪股 大輝 助教のヒアリング(https://seitokai.jp/archives/12106)に続いて、国際バカロレアなど独自の教育実践で注目を集めるさいたま市立大宮国際中等教育学校(以下、大宮国際)を訪れました。同校の生徒会顧問を務める山下 紘輝 教諭と、現役の生徒会役員である櫻井 漱 生徒会長、矢尾 謙至 副会長の役員2名で対応してくれました。
「生徒会活動について、かつては「教員の補助組織」といった印象などを持っている人もいるかもしれませんが、主権者教育や大宮国際で進める国際バカロレアの文脈が浸透する中で、そのあり方は大きく変容している」と話をされていました。今回は、山下先生と櫻井さん、矢尾さんから大宮国際の生徒会活動について実感を伴う活動報告を軸に、次世代の生徒会活動や自治のあり方を考える機会にしてもらえればと思います。
大宮国際は、2025年に一般社団法人生徒会活動支援協会が開催した「第9回日本生徒会大賞」の学校の部で優秀賞を受賞した学校でもあります。こちらも合わせてご覧ください。
https://seitokai.jp/archives/11259
特色ある国際バカロレアの学校らしい特色ある生徒会

委員会制の解体と「SA(サービス・アズ・アクション)」という仕組み
大宮国際の生徒会の組織図を見せてもらいました。最も特徴的なのは、いわゆる「美化委員会」や「図書委員会」といった、従来のどこの学校でも聞く固定化された委員会組織が存在しません。山下先生は、国際バカロレアの教育理念に基づき、これらを「SA(サービス・アズ・アクション/奉仕活動)」という枠組みに統合したと話していました。
「従来の委員会は、学校側から与えられた仕事をこなすだけの『形骸化』に陥りやすいところがあったため、本校では、生徒が自発的に立ち上げるプロジェクトを中心とした組織へ移行しました」とのことでした。
組織図によれば、生徒会執行部の下に「Core SA(継続的な学校運営に関わるプロジェクト)」と「Advance SA(生徒が自由に立ち上げる短期・長期の活動)」が並んでいます。これにより、古着回収や地域清掃などといったプロジェクトなども生徒が必要だと感じた瞬間に動ける柔軟性が担保されているそうです。
「生徒総会」を最高議決機関として機能させる
多くの学校で形式化している生徒総会を、大宮国際では「実効性のある立法機関」として再定義しているそうです。共有してもらった「生徒総会議案書(2024年度)」を見ると、第1号議案から第3号議案まで、SAの定義や役員の定義といった、学校の根幹に関わる規約改正が並んでいました。
大宮国際では、こうした組織の変更や規約改正についても頻繁に行っているとのことで、「本校ではしょっちゅう規則を改正しています。例えば夏服・冬服の規定についても、かつては時期による一律の切り替えがありましたが、生徒からの提案を受け、現在はその基準をなくしています。重要なのは、生徒が『自分たちの生活を自分たちの議論で変えられる』という実感を、規約改正というプロセスを通じて得ることです」と話されていました。
予算とガバナンス:生徒に「責任」を渡す
大宮国際の生徒会の特徴は、予算執行の仕組みにもあります。中央委員議会では、学校全体に関わる重要事項として「生徒会に関する予算」の議決権が生徒に与えられています。 「予算を握るということは、責任を伴うということです。自分たちのやりたいことのために、限られたリソースをどう分配するか。これは高度な政治的判断であり、民主主義の縮図です。教員はあえて『指導者』ではなく『伴走者』として、生徒の判断を尊重する立場に徹しています」とのことでした。

全校生徒を主役にした生徒会にするためSAの仕組みを考えた
後半のヒアリングでは、生徒会長の櫻井 漱さんと副会長の矢尾 謙至さんの役員2名が、実際の活動や、生徒会活動で感じている思いなどを話してくれました。
「学校の解像度」を上げる活動
生徒役員の2名が繰り返し話してくれたのは、「解像度」という言葉でした。 「生徒会役員は、学校のルールや運営の仕組みについて、一般生徒よりもはるかに高い解像度を持っています。しかし、その役員と一般生徒との解像度の差が『生徒会役員だけが盛り上がっている』という温度差や分断を生んでしまいます。私たちの今の課題は、いかにして全生徒の学校に対する解像度を上げ、当事者意識を持ってもらうかです」と話していました。
例えば、目安箱の運用においても、単に意見を聞くだけではなく、掲示板を活用し、「回答検討中」「回答済み」といったステータスを可視化することで、やり取りのプロセスを見える化しているそうです。これにより、一人の意見が学校を動かす一部になっているという実感を生み出していると言います。
校則改正における対立と合意形成
議案書にある「体育着・ジャージ登校の許可」を巡る議論では、生徒たちの論理的思考が際立っていたそうです。 「制服の清潔感を保つため、あるいは熱中症対策のためといった、極めて実利的な理由をエビデンスとして積み上げました。一方で、学校の近隣住民の皆さんからの印象や、公共の場での節度についても議論になりました」 単に「楽だから」という要望ではなく、学校というコミュニティが社会とどう関わるかという視点を持って、先生方や保護者とも交渉を重ねたそうです。この「折り合いをつける力」こそが、大宮国際の生徒たちが生徒会活動の中で培っている資質なのかもしれません。
多忙感と「やりがい」の狭間で
役員たちは、活動の苦労についても話していました。 「先週は資料作成が終わらず、放課後や帰宅後もずっと作業をしていました。正直、かなりしんどい時期もあります」 しかし、その表情に誇らしく、自分たちの手で生徒会の組織改変も行い、世代が変われば、またその代の生徒たちがが活動しやすい環境を整えていくという、こうした生徒会の中での様々な実体験は、教科書では学べない、彼らの経験と新設校でありながら新たな生徒会の伝統となっているように感じました。

視察することで見えてきた参考になる大宮国際の取り組み
大宮国際の事例は、全国の生徒会、特に「生徒に主体性がない」「役員と一般生徒の間に壁がある」と悩む高校にとって、参考になるところもあるのではないかと思います。
顧問は「生徒を指導の対象とする」から「パートナーとしての支援」への転換
顧問の先生のアプローチは、生徒を「指導の対象」としてではなく「パートナー」として捉えるものであるように感じました。生徒が規約を改正しようとした際も、先生方など大人は「それは無理だ」と止めるのではなく、「どうすれば実現可能か」という論理的思考のサポートに回っていると話していました。こうしたスタンスが生徒会役員との信頼関係を生み、生徒のエネルギーを最大化させることにつながっているように感じました。
組織も制度も常により良いものへと変えていく
従来の委員会活動が停滞するのは、その役割が「固定」されているからだと大宮国際では考えました。大宮国際の「SA」のように、課題解決のために組織を柔軟に作り変える仕組み、いわゆるアジャイルな組織運営は、変化の激しい現代社会における市民教育としては一つの方法として合理的でもあると思いますし、こうしたことも含めて組織を常により良いものに変えていこうというスタンスと挑戦は、生徒会活動の経験として質を高めることにもつながるのではないかと思いました。
全国生徒を生徒会活動の主役に。可視化による民主主義の質的向上
「目安箱の回答状況の見える化」や「予算編成の公開」は、一般の生徒たちに「自分ごと化」させるという意味でも、またガバナンスの透明性を高めるという面でも意味があります。これは、一部の役員だけでの自治ではなく、全生徒による「参加型民主主義」へと移行するための取り組みです。組織のところで触れた「SA」の仕組みも、一般生徒の「こういうことをやりたい!」という声に常に応えながらプロジェクト形式で実現しようという想いが込められていました。

視察を行った大分県立高田高等学校を含めた全国の生徒会の皆さんへ
視察を行った大分県立高田高等学校の伊藤 健一 校長は、最後に「大宮国際の事例をそのままコピーするわけではありませんが、『生徒に責任と権限を委ねる』という根本的な思想は、どんな学校でも取り入れられるはずだと思います」と振り返っていました。
生徒会活動は、単なる「行事の運営係」ではありません。それは、生徒たちが「自分たちの世界は、自分たちの手でより良く変えられる」という全能感を取り戻すための、最後の砦でもあります。大宮国際でのヒアリングは、その可能性を感じる視察にもなりました。
今回、高田高校の伊藤校長からの依頼を受けて支援したものでしたが、こうした生徒会活動を学校現場に視察しにいく取り組みで知れたり感じたりすることも多くあり、今後も機会があれば、こうして学校の現地訪問もしていければと思いました。
【文】高橋亮平(一般社団法人生徒会活動支援協会 理事長)
