「あいさつ運動」が地域を巻き込む大きな渦に:第9回日本生徒会大賞 大賞受賞者インタビュー
今回から連続企画でお送りする「第9回日本生徒会大賞(2025年開催)」受賞者インタビュー。今回は、高校生・学校の部で大賞を受賞された「宮城県泉松陵高等学校」の皆様へのインタビューをお届けいたします。
受賞理由
「声を拾って、かたちにする」姿勢をもとに、学校内外にわたる独創的な活動を進めた点を高く評価した。学校内においては、生徒総会に向けて各クラスから集まった意見をもとに総会資料を作成し、総会の場で生徒の質問に対し担当教員や役員がその場で回答する仕組みを継承してきた。また、「同世代との関係性だけでは時に息苦しい。もっといろんな世代の人と関わってみたい」という不登校傾向にあった生徒の声をもとに、地域住民、小中学生などを巻き込んだ「多世代あいさつ運動」などを通じて地域と顔の見える関係を作り上げ、生徒だけでなく地域の声を聞き、かたちにする活動へ進んだ。この具体例として、高校生と高齢者がともに参加し「多世代サードプレイス」として機能する「多世代部活動」アイディアを着想し、提案した。このように、生徒会活動を「参加できる」「発言できる」人のためだけではない、幅広い声が響き合い、それを形にしていく活動として作り上げていく方向性は「新しい生徒会」に向けて極めて重要な視点であるとして、生徒会大賞を授与した。
インタビュー参加者
<インタビュイー> ※役職はインタビュー当時
尾形 結愛那 さん:生徒会長
大山 明陸 さん:生徒会会計
伊藤 巧 先生:生徒会顧問
<インタビュワー>
荒井 翔平(一般社団法人生徒会活動支援協会 常任理事)
受賞への感想・反応
荒井:この度は大賞受賞、おめでとうございます。日本生徒会大賞を受賞されましたが、率直な感想をお聞かせください。
尾形:本当に驚いています。私たちだけではこの賞を達成することは絶対に不可能でした。学校の協力、生徒一人一人のおかげ、そして何より地域の方々との協力があってこその絆ですよね。絆があったからこそ、ここまで来れたと思います。これからもあいさつ運動を続けたり、多世代との交流を推進したりしていきたいし、次の世代にも受け継いでいきたいです。
大山:決選大会の進出連絡をいただいた時は「えっ」という驚きでした。全力で取り組んでいたつもりでしたが、どこかで落ちるんじゃないかという不安もあったので、驚きと喜びと多少の不安が織り混じっていました。
伊藤:本当に驚いています。生徒たちが私の予想を超えてくれているところが、教員としての面白さだなと思います。
多世代あいさつ運動について
荒井:受賞の決め手となった「多世代あいさつ運動」について詳しく教えてください。
尾形:このあいさつ運動がちゃんと始まったのは約2年ほど前でした。先輩たちが一つずつ重ねてきたものを、私たちが大きなイベントにして、多世代あいさつ運動として活動しています。
伊藤:実は、この活動は地域の方からの本校の自転車マナーの改善要望がきっかけで始まりました。最初は教員の頭の中には全くなかった話で、生徒たちが私たちの思惑を超えて活動を発展させてくれています。
荒井:なぜこの活動を広めたいと思い、審査にエントリーしようと思ったのですか?
尾形:先生から「他の学校はこういうことをやっていない」とずっと言われていたので、私たちの活動は当たり前のことじゃないということを証明したかったんです。他の高校にも広めていきたいという思いがありました。
応募から受賞まで
荒井:最終的に生徒会大賞への応募はどのような経緯で決まったのですか?
尾形:先生から「こういうのがあるんだけどどうかな」と提案されたのが最初でした。単純に東京でプレゼンするという理由だけではなく、2年間積み重ねてきた活動への自信があったからこそ応募を決めました。
荒井:みなさんそれぞれの役割分担について教えてください。
伊藤:生徒会は本当に仕事が多いので、彼女(尾形さん)がプレゼンテーションをすることになってからは、応募準備に専念できる環境を作ることが私の役割でした。副会長をはじめとする実務部隊がしっかりと支えてくれたおかげで、応募することができました。
大山:僕は生徒会長に誘われて一緒にやることになったので、彼女の意思を強く尊重したいと思いました。一人がリーダーシップを取ってやるというよりは、リーダーをみんなでフォロワーで支えていくという形が、生徒会としては理想だと個人的に思っているので、僕なりに彼女をしっかりサポートできるよう全力を尽くしました。
伊藤:こういう子がいるから回るんです。表舞台に立つ人だけではなく、縁の下の力持ちの存在が重要です。
荒井:たしかに重要ですね。その上で、決選大会のプレゼンテーション準備で工夫した点はありますか?
尾形:スライド作りで、いかに見やすく、わかりやすく説明できるかを本当に重視しました。審査員の人にすっと入ってきやすいかを追求して、今回はスライドをめちゃくちゃシンプルに作ったんです。だからこそ意思が通りやすかったというか、大賞にも繋がったんじゃないかなと思います。
大山:プレゼンテーションは覚えてしまえば何とかなりますが、質疑応答はその場で考えて回答する必要があります。どういった傾向の質問が来るか、スライドのどういうところが聞かれるかを事前に考察したり、想定外の質問にも落ち着いて答えられるように何度も練習を重ねたりしました。
荒井:応募書類を書く際に意識したことはありますか?
尾形:作文を書く時に、多世代あいさつ運動がどういうものかを大々的に書きました。生徒の思いだけでなく、地域の思いなど、いろんな人の思いを織り交ぜて書いたので、いいところまで行きたいなと思っていました。

手前左から、伊藤先生・大山さん・尾形さん。当日は卒業生も応援に駆け付けたとのこと
他校の発表から学んだこと
荒井:決選大会で他校の発表を聞いて、参考になったことはありますか?
大山:「低予算で最高を作る」という学校の発表が印象的でした。うちの文化祭は楽しいんですが、毎年ダンス、バンド、模擬店で終わりというマンネリ化があったんです。今まで自分たちが持っていた価値観とは違ったベクトルの面白いことがあるんだなと気づかされ、今後学校でも取り入れてより楽しいものにしていきたいと思いました。
尾形:イベントやフェスを開催している学校の発表がありました。うちの地区は高齢者の方々が多い地区なので、そういうイベントを開催したい気持ちはあるんですが、なかなか行動に移せないという現状があります。それが今の課題だと感じました。
今後の展望について
荒井:今回の受賞経験を今後どのように活かしていきたいですか?
大山:こういう大きな場での賞をもらえたということは、誇りと自信に繋がってくると思います。その自信を後輩に繋げて、「自分たちはこんなことをしたんだから、君たちもこういうことを頑張ってほしい」と伝えたいです。
尾形:発表の中でも言いましたが、「小さな声にも耳を傾けて、そして対話を続けていく」ことが生徒会で一番大事なことだと思っています。日常生活でもまだ耳を傾けていない部分があると思うので、そこを自分も活かしていきたいし、後輩たちにも小さなことかもしれないけれど、そういうのを一つ一つ大事にしてもらいたいです。
荒井:全国の生徒会役員の後輩たちにアドバイスをお願いします。
大山:自分たちがやりたいことをやってほしいということです。教員から提案されたものをやらされるのではなく、自分で調べて、自分で興味を持ったトピックに全力で取り組んでほしい。全力を尽くせば結果は自ずとついてくると思うので、自分たちのためにやってほしいです。
尾形:小さな声にも耳を傾けて、対話を続けていくことが大切です。小さなことかもしれないけれど、そういうのを一つ一つ大事にしてもらいたいと思います。
荒井:伊藤先生から、他の学校の先生方にメッセージはありますか?
伊藤:生徒会って結構なんでもできると思うんです。大人がやりたいと言ってもできないことでも、「生徒がやりたいと言っているんです」と言えば、意外と進んでいくことがあります。生徒会担当の先生にも、ぜひ楽しんでやりたいことをやるといいんじゃないかなと思います。ただし、特に地域に関わる活動の場合は、安全面や教職員の負担など、いろいろな意見が出てきます。学校や地域も一枚岩ではないので、どういう言葉遣いで、誰と話すかという根回しは重要な仕事になります。生徒たちが好きなようにやっている気持ちを大切にしながらも、裏では根回しをしっかりとすることが必要です。
荒井:今後も引き続き、素晴らしい活動を展開いただければと思います。お時間をいただきましてありがとうございました!
泉松陵高校が取り組んだ「多世代あいさつ運動」は、交通マナー改善の要望をきっかけに始まった取り組みでしたが、役員をはじめとした生徒たちの主体的な活動によって発展しました。成功の要因は、「生徒の主体性と継続的な取り組み」「地域との連携と絆づくり」「教員による適切なサポートと環境整備」「チーム一丸となった取り組み」が挙げられると思います。今後に向けては活動の継続と次世代への継承が一番の課題になり、よく言われる「引き継ぎ」がキーワードになりそうです。
【文・聞き手】荒井 翔平(一般社団法人生徒会活動支援協会 常任理事)
【写真】猪股 大輝(一般社団法人生徒会活動支援協会 専務理事)
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投稿者プロフィール
- 1991年東京都生まれ。東京都市大学環境情報学部環境情報学科卒業。一般社団法人生徒会活動支援協会代表理事、一般財団法人国際交流機構理事、私立大学環境保全協議会運営委員などを務める。2009年に生徒会活動支援協会を立ち上げ、生徒会活動に関わる様々な支援に取り組む。2010年に幅広い分野で社会的活動を行う、一般社団法人日本学生会議所を設立。


