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生徒会団体の地域化と高校会議所から考える、若者と社会の関わり方


印刷用PDFファイルを開く生徒会役員が,他校の生徒会役員と学校外で何かしらの活動を共にすることを一般に「外務活動」と呼ぶ.2006年の首都圏高等学校生徒会連盟の設立以降,主に関東地方を中心に外務活動が活性化したが,最近は関西地域においても大きな進展が見られている.また,生徒会に直接関係の無い高校生の校外活動に関しても,SNSの普及などに従って活発化し,特に「地域貢献」をテーマに活動を行っている高校生は多い.

今回のコラムでは,「地域貢献に携わる高校生」という観点から,地域化した外務団体と高校会議所を取り上げ,2015年6月に行われた公職選挙法改正以降に取り上げられることの多い「若者の社会参画」の流れをまとめておきたい.

生徒会団体の地域化と“高校会議所”の出現

関西地方で起こる「地域化」の流れ

昨今,関西地方を中心に生徒会団体の「地域化」と言える様な状況が起こっている.2017年度末に発足した兵庫県生徒会連盟や,時期を同じくして活動を開始した大阪生徒会連盟,京都府生徒会連盟など,従来の枠組みである関西生徒会連盟と比較して,より一層限定した地域レベルでの生徒会団体が発足しつつある.この一連の動きは,「全国高校生徒会大会」や,「首都圏生徒会大会」などと言った,より広い地域感での生徒会コミュニティの発足を目指す2010年代初めの動きとは,また違った流れであると考えられる.また,大阪生徒会連盟は僕たち高校生から大阪を「変えたい!良くしたい!」という想いで2017年1月に設立されましたと団体の設立目的を掲げ[i],京都府生徒会連盟は京都に住む私たちがあまり京都を知らないことを改善するため生徒会に出来ることを議題として取り上げる[ii]など,従来の生徒会団体においては余り注目されることのなかった,「生徒会団体と地域の関わり」を強く意識している点もまた,注目に値するだろう.

 

なお,関西地方以外でも,地域との関わりを強く意識する生徒会団体が存在し,その代表例として静岡県の浜松生徒会連盟が挙げられる.同団体は生徒会の力で浜松をより活気のある街にすることを活動目標として掲げ[iii],実際に浜松の他の学生団体等と連携した活動を展開している.

“地域社会参画”と場としての高校会議所

関西地域における一連の生徒会団体の勃興と共に,「高校会議所の設立」からも目が離せない.例えば兵庫県明石市を中心に活動を行う,あかし高校会議所は,明石市内の振興について話し合い,高校生の目線から地方創生に関する企画,実行をしていくといった目的を掲げている[iv]事からも分かる様に,高校生と地域社会の関わり合いについて,積極的な意思を持っているという事ができるだろう.同様の団体がふじのみや高校会議所(静岡県富士宮市),いまばり高校会議所(愛媛県今治市)のように,各々高校生の自発的意思によって設けられ,その上部組織としてにっぽん高校会議所(JHSC)も設置されている.

“若者と社会の関わり”の在り方

社会へのアクセス手段としての「団体」

「生徒会団体の地域化」と「高校会議所の設置」という2つの事柄は直接的には関係しないが,両事例の根本には『高校生が地域社会へアクセスする手段の確保』という命題が共に隠れていると分析することは容易であろう.少なくとも2015年6月の公職選挙法改正以降,社会全体としては『(選挙のみならず)若者が社会に参画をする』事が求められている一方で,その参画手段は地域差が大きく,単なる都心-地方格差という枠組み以上に複雑な地域間格差が存在しているとの印象を筆者は受けていた.

例えば愛知県新城市においては,行政主導の枠組みとして「若者議会」が設置され,若者議会に一定額の予算が割り振られる施策がなされている.ただ,こういった施策が都心部で一概に行われている訳でもない.主な理由として『行政主導の若者の社会参画施策』は首長の関心といった不確実要素の産物としてのみ生まれ得る,換言すれば地域行政レベルでは“若者の社会参画施策を行政として取り組む必要性が一律には認識されていない”という状態にある為であろう.

だからこそ,地域化した生徒会団体であれ,高校会議所であれ,(若者の地域社会への参画という文脈においても)非常に大きな価値を持つこととなる.行政側がそういった施策に無関心である以上,当事者である高校生が参画のきっかけとなる団体・枠組みを整備し,逆にボトムアップ形式で行政側に働きかけを行う事が可能となるからである.

団体は“存在”することそのものに意味がある

当然ながら,高校生もその地域の構成員である.だからこそ『ここ,こうしたらもっと良いのにな…』『こんな事やってみたいんだけれどもな…』という気付きやアイデアを持っている可能性は十分にある.一方で,高校生が等しく団体・枠組み立ち上げに精通,若しくは経験を持つ訳では当然ない.

このギャップが結果として,高校生の気付き・アイデアを葬り去ってしまうことは(可視化されていないだけで)かなり多くの数あるのではないだろうか.団体・枠組みが存在しなかった結果として,気付き・アイデアが具現化されず,実行にも移されないという状況は余りにも虚しい.そういった意味合いで,地域化した生徒会団体・“高校会議所”はその存在そのものに「きっかけ」としての存在意義があると言うことが出来るのではないだろうか.

“持続性”が鍵

持続性は,どの団体でも常に課題となる事柄であるが,特に地域社会参画の分野においては非常に重要な視点となってくる.

持続性に関して,まずは前段で述べた様な「高校生に対してきっかけを提供し続ける」という意味合いが一義的なものとなる.団体の持続性に関して,人材の確保が最も重要な要素となることは,本サイトの読者の皆さまであれば十分にご理解頂けると思うが,少なくとも「地域化した生徒会団体」に関しては,一定の囲い込みが出来る為,その他の学生団体以上の持続性があると考えられる.

そして持続性という観点は「行政側に変化を起こす」という事柄にも大きく関連する.若者の地域社会参画の重要性を行政側に認識させ,政策転換を起こす為には,活動の安定性が大前提となる.また,行政施策の展開の中に若者の地域社会参画の要素を盛り込むこととなれば,一定の長期間にわたるビジョンと行動計画策定が必要となってくることは想像に難くない.付言すれば,4年任期の地方自治体選挙職が多い中では,「若者の地域社会参画」を特定党派の占有物としない為にも,4年以上の活動を見通す事が求められてくるはずだ.

参画度合いを押し上げる大きな可能性

いずれにせよ,「地域化した生徒会団体」はもちろんのこと,学校内における生徒会活動に大きく携わらない高校生にも参加の門戸が開かれている“高校会議所”が,今ある3地域の高校会議所を範に全国的に展開されれば,日本における「若者の地域社会参画の度合い」が大きく向上することは言うまでもないだろう.

『大きな』生徒会という概念

スウェーデンにおける“若者協議会”と“若者会”

ここで,若者の地域社会参画という観点から,海外の参考事例としてスウェーデンの「若者協議会:Ungdomsfullmäktige(UF)」と「若者会: Ungdomsråd(UR)」を紹介したい.若者協議会,若者会共に,地域の若者(中学生~高校生程度)が地域課題に取り組んでいるという点に於いては,今回のコラムで扱ってきた“地域化した生徒会団体”と“高校会議所”に近しいものである.一方で,その両者の間には大きな違いが存在する.

若者協議会は,英訳すると“Youth Council”となり,その構成員は選挙等の民主的プロセスを経て「選ばれ」,フォーマルな形で政策の提案・実施や予算編成を行う.若者会に関しては基本的に参加したい若者が自由に参加することができ,若者協議会と比較してより自由に,よりローカルな活動を行っている.

若者協議会の活動の一端を表す掲示物

筆者が先日訪問したスウェーデン・ヨーテボリ市を例に挙げてみよう.若者が地域に参画する場として,ヨーテボリ市全域を管轄するヨーテボリ市若者協議会が存在する.ヨーテボリ市若者協議会のメンバーは,ヨーテボリ市を複数の地区へ分割し,それぞれの地区で選挙を行って選ばれた若者約100名によって構成されている.この若者協議会は,市から年間約300万円の給付を受けており,その予算の編成・執行は全て若者協議会のメンバーに委ねられている.また,若者協議会は会内部に設置されたワーキング・グループを中心に会の活動を進めており,これまでに「若者の交通費を夏季休暇中に無料とした」事例や,「ヨーテボリ市の若者を伝える本」の作成等を実現させていた.

そして筆者が訪問したヨーテボリ市内の東ヨーテボリ地区には,若者会が設置されていた.東ヨーテボリ地区はヨーテボリ市内の他地区と比較しても,難民・移民層が多い地域となっていることもあり,この若者会のメンバーのバックグラウンドも非常に多様であった.そういったある意味で特別な地区であるからこそ,地区の社会統合は非常に大きな課題となっており,若者会としては「全ての若者にやさしい街」とすることに非常に注力している様子が見て取れた.全体として,地区に設置される若者会は市全域を管轄する若者協議会よりも細やかな課題を取り扱っており,双方が補完的な関係にあると分析することができるだろう.

スウェーデンの事例から何を学ぶか

ヨーテボリ市の事例から分かるように,スウェーデンにおける若者の地域社会参画の過程では,幾つもの受け皿が存在しているからこそ,多様な意見を吸収する事が可能となっていた.市全域を見るよう若者協議会,よりローカルな課題に向き合う若者会,その双方が密な連携を取り,その上で行政によるバックアップがあるからこそ,実際に「若者の声」が各所に反映される様になっている印象を強く受けた.

そして,枠組み設計として,若者協議会の様に「民主的プロセスを経てメンバーを抽出する」という形も十分に意識する必要があるだろう.若者会の様な「意思がある者のみが参加する」形のみならず,若者協議会の様に,選挙などで一定の信任を得た者によって構成するような形の組織も存在してこそ,枠組み全体の公共性多様性が確保されうるのではないだろうか.

おわりに

改正公職選挙法の成立から,まもなく3年が過ぎようとしている.これまでの3年間は,例えば「主権者教育」や「公職選挙における投票」など,当事者である高校生が大きな枠組みに「参加する」という形のものに関しては大きな進展が見られ,社会的な認知度も向上した.一方で,『若者が主体的に行動を起こし,様々なレベルの社会を変える』という行動の形は,依然として中心的なものではない.

しかし,『自身の置かれている環境に関して問題発見・解決に取り組み,積極的に行動を起こす』ことは実践的な面において何よりもの「主権者教育」であり,その中で得られる経験や知見といったものは,これからの日本社会を支える基盤となることは間違いない.まずは現在活動を行っている各団体が,この分野における先導者として,活躍と発展を遂げることを祈念してやまない.

参考

  1. 大阪生徒会連盟, 団体概要ページ, (確認日 2018-05-08).
  2. Shake Hands, twitter, (確認日 2018-05-08).
  3. 浜松生徒会連盟, twitter, (確認日 2018-05-08).
  4. 複合型交流拠点ウィズあかし, 明石高校会議所, (確認日 2018-05-08).

投稿者プロフィール

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栗本 拓幸
1999年生まれ、東京都出身。浅野高校卒、慶應義塾大学総合政策学部在学。統治機構改革、若者の政治参画、憲法改正などが主たる研究・関心領域。他、キャリアに関する授業登壇、AO入試対策など多数。Podcast「この○○の片隅から」配信。2019年度限りで理事を辞任。