生徒会.jp
  1. TOP
  2. 記事
  3. コラム
  4. 日本最大の通信制高校がめざす生徒会とは:N/S高等学校インタビュー前編

日本最大の通信制高校がめざす生徒会とは:N/S高等学校インタビュー前編


N高等学校。学校法人角川ドワンゴ学園が運営する広域通信制高等学校である。2016年に開校、併設のS高等学校とあわせて約23,000人の生徒を擁する、国内でも随一の規模を誇る高校だ。
IT業界の雄・ドワンゴが発足した高校ということもあって開校以来注目を集め続けている。
そんなN/S高から昨年10月に生徒会の発足が発表された。通信制高校での生徒会といえば、当協会主催の「日本生徒会大賞2021」で奨励賞を受賞したトライ式高等学院も記憶に新しい。
元来、通信制高校では通学を伴わないことから生徒が集まっての活動が難しいこともあり、生徒会は組織されないことが多い。そんな状況下で生徒会を発足したN/S高が描く生徒会像は、一体どのようなものなのか。
今回、生徒会活動支援協会では具体的な取り組みを生徒会長の石井淳平さん、学校法人角川ドワンゴ学園 ブランド統括マネージャーの佐久間彩乃さん、学校法人角川ドワンゴ学園 理事の川上量生さんに話を伺った。

インタビュー概要

N/S高の生徒会とは

N高等学校・S高等学校は2022年10月に生徒会の発足を発表。同年11月に役員選挙が行われ、生徒会が発足した。会長・書記・会計に加え、N高と併設のS高での総代、地区ごとの代表をあわせた20名で構成されている。

インタビューイー

  • 石井 淳平さん(N/S高等学校 生徒会長)
  • 佐久間 彩乃さん(学校法人角川ドワンゴ学園 ブランド統括マネージャー)
  • 川上 量生さん(学校法人角川ドワンゴ学園 理事)

写真左:川上さん、右:石井さん、下:佐久間さん

インタビュワー

  • 高橋 亮平 (代表理事)
  • 吉水 隆太郎 (事務局長)
  • 宮澤 直行(事務局)

インタビュー

立候補は「予想通り」?

宮澤:立候補をされた際、同級生はどんな反応をしていましたか?

石井:私は N/S高の政治部という部活に所属しており、周りからは「やっぱり立候補したんだね」という反応でした。皆さん予想通りという印象だったみたいです。

宮澤:選挙の際の公約を教えていただけますか?

石井:N/S高では例年4月の後半ごろ、学園の文化祭をニコニコ超会議のブースを借りて実施しています。その文化祭をもっと盛り上げていくために、いろいろなことを議論しながらやっていこうと思っています。また、生徒にかかる負担を軽減して行きたいと考えています。

具体例で申し上げると、スクーリングという制度が単位認定の要件としてあるのですが、申し込みの手続きが複雑でわかりにくいと思っている生徒が多かったので、よりシンプルにしていきたいと思っています。加えて、校内でのお知らせ等の情報が多く、把握しきれないという声もありましたので、情報の一元化をして生徒の皆がよりよい学園生活を送れるようにしていきたいと思っています。

生徒会の成立背景

高橋:N/S高の生徒会は先生と生徒のどちらからの発案なんでしょうか?

石井:複数名の生徒から、学校に対して生徒会を作ってほしいという要望があったと聞いています。

設立から今まで

宮澤:生徒会活動が始まってからだいたい2ヶ月ぐらいだと思いますが、ここまでの活動で手応えはありますか?具体的な出来事もあれば教えてください。

石井:我々の生徒会は日本一生徒が自由に決められる生徒会でして、内部の仕組みや、意思決定の方法についても全部生徒が決めるということになっています。まずは安定した生徒会の運営基盤を作るべきだと考え、この2か月は運営体制の構築に取り組んでいます。

高橋:これまでに決めたことは何かありますか?

石井:定例の議論の時間設定といった枠組みから、Googleフォームを活用した意見箱のような生徒向けのサービスの運用方法まで、多くのことをやってきました。

吉水:「何でも自由に決められる生徒会」だからこそ、逆に何かを決めることが難しいシーンもあると思います。選択肢が多すぎて何から手をつけていいか分からなかったり、何を参考にすればよいか分からないようなときもあったりと、苦労されたんじゃないのかなと思っています。

石井さんがどういうことを参考にして生徒会を作っているのか、それとも一から自分たちで話し合いながら作っているのか、今の組織を形作るまでどういったプロセスを踏んできましたか?

石井:そうですね。 N/S高 政治部に所属しているので、基本的には国の行政機関を参考にしながら自分の考えをブラッシュアップして決めていったような形です。

吉水:中央省庁のような分業体制をイメージして、組織を作ったということですか?

石井:おおむねその理解です。

高橋:任期は一年間ですか?

石井:基本的には1年間ですが、初回に関しては令和4年の11月16日から令和5年の6月30日までになっています。

高橋:一年目は短いのですね。「日本一自由に決められる生徒会」ということでしたが、その重荷があると思うんですけど、任期満了までに「日本一自由に決められる生徒会作ったらこうなるんだね。」っていうレベルまで生徒会を高めるとしたら何をやりたいですか?

石井:N/S高らしさというものを前面に出した活動ができているということだと思います。一般的な学校の生徒会であれば、学校内だけでの活動になってくると思うんですけれども、N/S高ということで、学内にとどまらずに様々な方にもご協力いただきながら、学外にも波及するような活動ができていることが良いのかなと思っています。

高橋:なるほど、ありがとうございます。楽しみにしています。

設置した側のバックグラウンド

宮澤:続いては佐久間さんと川上さんのお二人に伺います。お二人は生徒会役員のご経験はございますか?

川上:中学生の時は役員を自分から立候補してやっていました。

佐久間:私は中高一貫校で6年間やっていました。

高橋:生徒会を経験されたそのような方々が学生時代に戻ったら「僕らにはさせてもらえなかったけど、本当はこういう生徒会の方が良かった」という生徒会の姿の一部がN/S高の生徒会の環境に投影されていると思うのですが、いかがでしょうか。

川上:どの学校もそうだと思うんですが、なかなか生徒が実際に機能している生徒会って少ないと思うんですよね。私の学校でも、生徒会は何をやっていたかと言ったら、立会演説会をして選挙をしただけです。そして学年が上がって、また選挙をやる。実質的な中身は朝礼などで前に出るくらいの非常に限定された役割しか無くて、何かを決める組織ではありませんでした。

なので、今回僕たちがやろうと思っているのはこのようなものではなく、もっと小説やドラマの話の中にも出てきそうなものです。生徒会が実際に権力を持っていて、それを行使するときに責任が生じる。社会に出た際にリーダーシップを発揮するときに経験するようなことをしますから、練習として体験できるような制度を作ろうというのが最初からのコンセプトですね。

高橋:このタイミングで生徒会をつくった理由は何かあるんですか?川上さんの中で「ここまで行ったから次はこれだ」といった計画のようなものなどはいかがでしょう?

川上:生徒会を作ろうという計画は開校当初からありました。N/S高は、ネットを通じてコミュニティをつくる通信制高校という新しいジャンルを目指して設立しました。開校当初からネット遠足や、ネット運動会1というネットで生徒が交流するイベントをやっていたんです。

ネットでのコミュニティがある通信制学校は日本でも初めてで、どこまで上手くいくかがわからなかったので最初は学校側が仕切ってそこに生徒が参加してもらう形だったんです。ある程度イベントが上手くいったので、何年か前からネット遠足やネット運動会の企画や運営に生徒も入ってもらうことにしました。生徒自身が運営するほうがやっぱり盛り上がるんですよね。オンラインでコミュニティをつくるネットの高校という新しいチャレンジはある程度、ちゃんと機能していると確信を持ちましたので、そろそろ生徒会を作っても大丈夫だろうと3年前に思いました。

3年間かかってしまった理由は、僕が満足する生徒会の形を作れなかったからなんです。N/S高にも学校経験者のある教職員がたくさんいますが、どうしても学校がコントロールしてリスクをできるだけ抑えた生徒会、つまり学校が敷いたレールを走る生徒会という案しか出てこなかったんです。これだったら作る意味がないと、毎年延期を続け、ようやく去年スタートできたんです。ちなみに生徒から生徒会を作ってほしいという要望は設立当初からありました。2〜3年前も生徒間で署名運動をやっていた記憶がありますね。

選挙システムと投票率

吉水:N/S高の選挙システムは、会長や会計など役職に対して立候補して選挙していくかたちではなく、得票数1位が会長、2位が書記といった、選挙方式だと伺っています。このようなシステムにした背景などがあればお伺いさせてください。

川上:選挙の仕組みに関しては、そもそも役職に意味がある生徒会ってあまりないと思うんですよね。実際に書記が議事録をとっているっていう学校は少ないと思うし、特に会計が帳簿をつけるというような事もやってないところの方が多いんじゃないかと思うんです。なので、役割そのものについても生徒が決めていく生徒会にすることにしました。そうすると仮の肩書きは何でも構わないことになります。それに実際、選挙をやる上で生徒会がどういうものかもわからないのに、役割に対して誰が一番なのかっていうのは現実問題として生徒が判断できないだろうと考えます。

最初の段階で生徒が決められるのは、生徒会活動をやって欲しい人であって、役割までは難しいのではないでしょうか。もしかしたらこれから生徒会というものが何年かかけて成熟していって、生徒でも認知が広がっていけば、役割を最初からつけても意味のある選挙もできるかもしれないですが、現時点では全部一緒にしないとそもそも投票はできないし、生徒会も成立しないだろうと考えました。

吉水:確かに、必ず競争選挙が生まれる仕組みになっていて非常に興味深いと感じておりました。ちなみに石井さんは選挙戦をどのように戦っていたんですか?

石井:私の場合は、本当の選挙のように戦ったというのが大きいですかね。演説の際にたすきをかけてみたり、チラシを700枚ほど印刷所に発注したり各地のキャンパスに行って生徒ひとりひとりに直接配ったりしました。ネットでコミュニケーションを取る高校にしては大変アナログな方法での選挙活動になりました。

現在、国会議員のところでインターンをさせていただいていて、そこでの経験から、選挙で勝つには「もうこれしかないだろう」と考えてそのまま実行という形になりますね。

吉水:他の候補者とも戦い方が明らかに違ったという印象を生徒は受けたんですかね?

石井:そうですね。周りの方から「立候補するところ間違えたんじゃないか?」と言われるくらいに立候補者の中ではかなり異端な方だったのかなとは思いますが、結果的にそれが一番効果的だったということが分かったのかなと思います。

吉水:実際の選挙だったら自分の支持母体がどこにあるかとかってことを気にしながらロビイングや票集めをしていると思うんですが、石井さんの主な支持層はどの層と考えていますか?通信制の方でしょうか。

石井:おそらく主な支持層はキャンパスに通っている通学コースの生徒であると思っています。それは私が主にキャンパスにてリアルでの活動を中心に行ってきましたので、キャンパスにいる生徒に対して直接お話ししたり関わる機会が多かったのかなと考えております。

吉水:その結果、1位当選っていう形で今会長としていらっしゃるところですね。

宮澤:この選挙への立候補者総数って何人ぐらいだったんですか?

石井:169名が立候補しました。

吉水:有権者数は何名なんですか?

石井:有権者は生徒全員ですので、23,000人以上になります。

宮澤:ちょっとした自治体の議会選挙ぐらいの大きさになりますね。投票率はどのくらいでしたか?

川上:およそ28%ぐらいですね。

吉水:この投票率はいわゆる普通の高校と違って、体育館や講堂で演説会を聞いた後、一斉に選挙を実施する形ではなく、任意に投票が任されているからという背景もありそうですね。

高橋:一方で会長はある種政治家のような思いでやられているということでしたが、この28%という数字をどう思っていて、どうしたいと言うのがあったりしますか?

石井:常日頃から実際の選挙でも思っていますが、半分以下の方しか投票に行かれないというのは残念な気持ちがやっぱりあります。この生徒会選挙に関しては実際に自分たちで決められることですから、自分たちの学校生活が大きく変わるかもしれない選挙になっています。自分に与えられた一票と権利を行使してもらいたかったなとは思っているところです。
投票率に関しては、生徒会などで重要性を訴えかけていくことで少しでも上げられたらいいなと思っています。

高橋:169人が生徒会活動をしたいっていう同級生がいたわけですよね。その方たちをどう巻き込んで活動していこうとかっていうのはありますか?

石井:普通の学校であれば、役員が20人だと多い方だと思うんですが、23,000人も生徒がいると企画などの規模も大きくなってきます。なので、立候補した生徒を集めて例えば企画の構想や実行における諮問機関や外局となる組織をつくって、そういったところで活躍していただけるような環境整備していくといったことがあるといいのかなと思っています。

高橋:まさにそういうことを思って話をしました。ぜひ巻き込んでもらえればと思っています。石井さんはいい意味でも政治家っぽいと感じるんですが、逆に本物の政治家たちが有権者の投票率を上げられていないということは同じやり方では上がらないと思うので、その本物の政治家がモデルにするような形で巻き込んでいただけたらなと思いました。

川上:投票率に関して補足しますと、僕たちは28%というのは結構高かったと思っています。通信制高校では、単位を取ること以外の活動に生徒を巻き込むというのは非常に難しいです。日頃からアクティブな生徒はほぼ参加したということで、僕としてはすごく大きな数字だと思っています。この28%をさらに上げるのは難しくて、そんなに簡単ではないと思っています。

また、立候補した169人はどれぐらいの数字なのかといえば、僕たちが提供するネット部活の中で投資部という高いコミットを要求する部活のうちで一番人気なものがありますが、第一回目の入部申し込み人数は大体200名を超えるくらいでした。なので、ハードな部活の中では一番人気に近い注目があったということですね。投資部は投資資金として学園から20万円提供してもらい参加できるというかなり生徒のインセンティブが高い活動ですから、それと比べても遜色ないぐらいの応募者があったということで、生徒の興味を相当引いたと考えています。


後編は3/30公開予定です。
【文】宮澤 直行(生徒会活動支援協会 事務局)
【構成】五十嵐 誠(生徒会活動支援協会 運営委員)


  1. ネット遠足・・・生徒や教員の交流を目的とした行事。2016年の開校以来オンラインゲーム「ドラゴンクエストX オンライン」上で行われている。
    参考:https://nnn.ed.jp/blog/archives/mg1y5i9qd0/
    ネット運動会・・・メタバース「バーチャルキャスト」上でeSportsを用いたリアルとネットを融合して行われる運動会。2021年開始。
    参考:https://nnn.ed.jp/blog/archives/17893/ 

投稿者プロフィール

アバター画像
五十嵐 誠
2000年東京都生まれ。東京都立八王子東高等学校、信州大学工学部を卒業し、同大学大学院総合理工学研究科工学専攻水環境・土木工学分野に在学。高校在学時には生徒会会計役員として会計規定の改正と生徒の業務簡略化を図った。2017年度多摩生徒会協議会議長。現在は、生徒会と教員のより高度な協働環境の整備を目指して活動している。