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生徒による生徒のための学校づくり:日本生徒会大賞2023受賞者インタビュー 東福岡高等学校 田中洋平先生


連続企画でお送りする日本生徒会大賞2023受賞者インタビュー。
今回は顧問の部で奨励賞を受賞された東福岡高等学校 田中洋平先生のインタビューをお送りします。

インタビュー概要

受賞理由

生徒会活動は学校の生徒全体の取り組みである以上、顧問教師と役員の関わりのみならず、教師集団全体と生徒全員を巻き込む形で活動を活性化する必要がある。氏は「生徒による生徒のための学校づくり」という学校改革の一環に生徒会活動の活性化を位置づけ、教職員間の意識のすり合わせを積極的にリードしたり、生徒を信頼し、実際に権限を与え、活動を任せるような関わりを増加させたりした。また、生徒会活動の活性化を目指し、地域や企業と積極的に協力し、多様な機会づくりを進めた。これらの点を評価し、奨励賞とした。今後は、教員が参画の枠を作って生徒が参加するのみならず、生徒自身が学校生活や社会生活の様々な問題を発見し、学校改革の担い手となるような活動の発展を期待したい。

インタビュー参加者

<インタビューイー>

  • 田中 洋平先生/東福岡高等学校 生徒会顧問

<インタビュアー>

  • 吉水 隆太郎/一般社団法人生徒会活動支援協会 事務局長

インタビュー

応募のきっかけ・学校内での反応

吉水:まず初めに、今回生徒会大賞への応募を決意した理由についてお聞かせください。

田中:きっかけは学校に届いた1枚のFAXでした。「こんな賞があるんだ、ぜひともうちの生徒たちの頑張りを見てもらいたい」と思い応募させてもらいました。

吉水:受賞にあたって、周りの先生方の反応はいかがでしたか。

田中:今回、受賞したことがきっかけとなって、生徒への権限委譲を加速度的に進められるようになってきました。多くの先生たちから「生徒会に協力しよう」と言ってもらい、大変ありがたいと思っているところです。

吉水:そのようなきっかけになったこと、非常に光栄です。

「生徒による生徒のための学校づくり」

吉水:では早速本題に入りますが、田中先生が「生徒による生徒のための学校づくり」を実現しようと思った理由について教えてください。

田中:私たち東福岡高校の生徒会は現在60名程度で活動しています。私は5〜6年前から顧問を担当していますが、2,400名の全校生徒に対し当初10名弱だった生徒会の生徒たちも大きく増えました。着任して以降、学園祭でやりたいことなどを事前に生徒たちに聞いて予算組をするなどしていました。
その上で、校長先生からの鶴の一声も後押しとなって2022年度からより具体的な生徒会改革に着手しました。問題点として考えていたのが、これまで生徒手帳に記載のある委員会が実態のないものとなっていたり、生徒総会も定義されているのに実施されていなかったりしたという点です。私としては根幹に「生徒ファースト」を置くことが重要と考えていました。

吉水:生徒ファーストの立場で指導されようと思ったきっかけについて教えていただけますか。

田中:私は新任から10年ほどラグビー部の顧問を担当していたことが大きな財産となっています。そこでは多くの優れた指導者と出会うことができました。従来は監督の指示を聞いてその通りのプレーをできた選手がいい選手とされていましたが、何故かいつもここぞというところで負けていました。そこから、選手たちの主体性を重視し、生徒たち自身に考えさせる指導の方へと移行されていく過程を目の当たりにし、これを生徒会顧問としても活かそうと考えました。
リサーチ段階で10数年前の生徒が残した事績綴りを読み返してみたのですが、教員のやりたいことを生徒の名を借りて実施していたり、生徒のやりたいことがあるにもかかわらず実現しなかったりという状況に疑問を呈する過去の生徒会長のコメントが残されていました。おそらく当時の教員はそのことを良かれと思ってやったのだと思います。

吉水:スポーツの指導に於けるパラダイムシフトを目の当たりにされて、生徒会の指導にも活かせると考えられたということですね。

生徒会改革のきっかけ

吉水:ラグビー部でのご経験から「生徒による生徒のための学校づくり」を目指すようになったというお話でしたが、どのように生徒会活動の指導を行ったのでしょうか。

田中:私どもの学校では、これまで教員のマンパワーを活かし、一人ひとりに向き合った指導を中心としていました。“面倒見の良さ”を売りにしていた面もありますが、近年の働き方改革やコロナ禍を通して、また偏差値によらない物差しで生徒たちを育てていきたいという意見が教員たちからも上がりつつあったので、学校全体も生徒の主体性を重視するようになってきました。生徒の主体性を育てていくという面から、生徒会のあり方を見直さなければならないという思いが強くなっていきました。

吉水:田中先生は具体的にどういった活動で生徒さんをサポートされていますか。

田中:学校に届く生徒会に関するすべての案内は私の机上に置かれるので、コンクールや企画への参加申込など、できるだけ生徒会や全校生徒に配信しています。また、基本的に生徒たちから出た企画や要望にNoとは言いません。実現が難しそうな場合も、データ収集を徹底させ「なぜならば」などの目的の部分を何度も確認します。先生方との想定問答なども伝授し、時間をかけて議論の仕方などを教えています。
先日の決選大会も拝見させていただきましたが、早稲田大学高等学院の塚本さんや、滝高等学校の伊藤さんのスピーチを見て、「こういうリーダー達が今後日本を引っ張ってくれたらいいな」と感じました。先日の高校生徒会リーダー夏合宿もそうですが、こういった活動をしている全国の生徒と交流を深めることは必ず良い経験になると感じています。

変革を進める「覚悟」

吉水:お話を伺っていく中で、東福岡高校さんが変革を進める「覚悟」を持っていらっしゃるように感じました。
一方、伝統ある私立校ということもあり、保守的な思考を持ったベテランの先生もいらっしゃるのではないかと思います。こういった先生方を、どのように巻き込んでいったのでしょうか。

田中:まず、校長先生に仲間になってもらいました。本当に心強かったです。そして、仲の良かった少し上の世代の先生方がさまざまな役職に就いていく時期も重なり、根回しというか、一人ひとりの先生方と密に連携をとることを大切にしました。納得するかしないか、正解か不正解かなどは別にして、とにかくしつこく何度も話をしに行きました。気がつけばいわゆるベテランと若手のバランスが取りやすくなり、議論が深めやすい雰囲気が醸成されたと思います。おそらくどれも正解なんだろうと勝手に思っています。
また、以前から本校の経営に携わってこられた理事長だけでなく、一般企業で社会経験をされた副理事長が就任されたことで、いわゆる「伝統」と「革新」が上手に混じり合ったかたちで学校中を巻き込めたのかなと考えています。さらに全教職員全生徒へiPadが導入されたことで、アンケートなどの情報収集がしやすくなり、一気に風通しも良くなりました。もちろん根源的には、生徒たちの「◯◯したい」という思いの強さが大きな原動力となりました。

“日の目を見ない”生徒

吉水:生徒のための学校づくりが大事であると思われた背景や、その必要性についてはどのように考えられているのでしょうか。

田中:本校は中高一貫合わせると約2,400名の生徒が在籍しています。部活動も非常に盛んで、インターハイ出場者や日本代表選手も多数います。
部活動で“光の当たる”生徒もいますが、一方で日の目を見ない生徒もいます。
そうした観点から、生徒会の活動をより活発にしていくことで、多くの生徒の活躍の場を作ってあげられるし、何か校内で化学反応のようなものが起こらないかと期待しています。

吉水:生徒会の活躍を、先生の目からはどういうふうに見ておられますでしょうか。

田中:日々楽しそうに活動しているなと思っています。1年生の生徒たちはボランティアのお手伝いみたいな状態になっているんですが、2年・3年になっていくと指示を出す側になっていく、その過程で達成感や楽しさを見いだしてくれているようで、参加してくれる生徒がここ数年で大幅に増えてきています。
2,000人以上を擁する学校ですから、興味のある生徒、適性のある生徒はもっといるのではないかなとも思っています。逆に生徒たちから教わる機会が増えているんですね。教師側からも、「この子こんなことできるんだ」という新たな視点を得るきっかけになっています。オープンスクールなどで中学生や保護者に本校の魅力を嬉々として伝えている様子などを見ていると、学校を好きでいてくれてありがとうと言いたくなってしまいます。

生徒への期待・課題・今後の展望

吉水:生徒さんに対して感じている期待や課題、また今後こんなことをやってほしいといった展望はありますでしょうか。

田中:生徒が変わり、教員や学校が変わっていく様子を実感できているので、生徒会への期待は大きいものがあります。ですが、課題や今後してほしいことは私の方からはあまり言わないようにしています。ただ、活動に参加する生徒が増えつつあるなかで、手持ち無沙汰になってしまう生徒が出てくるのではと予測しています。ゆえに、他校との交流を含めたかたちで、自然と生徒たちの方から校外へと活動の幅を広げていくのではという展望はあります。
福岡県内では、生徒会の活動は地味な存在として扱われているのが現状です。例えば、県立高校でも生徒への権限委譲が議論されているのですが、予算組みは議論の俎上にもあがっていないようです。現在日本中で問題となっている校則の問題も、生徒のよる学校自治のレベルが上がっていけば解決すると考えています。自分たちの学校のルールを自分たちで決めて、自分たちでコントロールできるようになったら嬉しいですよね。
生徒たちにやってほしいことはありませんが、自分がやりたいことはあります。生徒会自体がまだまだ学校ごとで閉鎖的です。今後は我々教員同士のコミュニティみたいなものを作って、多くの学校さんを巻き込んでいけたらなとは思います。多様化していく社会ですから、学校や教員も社会と繋がったり、協働したりしていく必要があると思います。そういった意味では、生徒会にはまだまだ多くの可能性があるのではないでしょうか。

吉水:ぜひ、今後も生徒会指導のトップランナーとしてご活躍いただきたいと思います。
本日はありがとうございました。


【文】 宮澤直行/一般社団法人生徒会活動支援協会 理事
【聞き手】 吉水隆太郎/一般社団法人生徒会活動支援協会 事務局長

投稿者プロフィール

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宮澤直行
1999年長野県生まれ。長野県高遠高等学校、日本工学院八王子専門学校卒業。
高校生時代、生徒会のSNSやWebサイトを立ち上げたほか、文化祭の広報にマスメディアを活用するなど生徒会の対外広報に注力。