
生徒が「参画」を実感できる新しい生徒会の創造を目指して
社会全体による「生徒会活動」へのサポートを
2015年4月、「一般社団法人生徒会活動支援協会」(以下当協会)は、定款を変更し、新たなスタートを切った。当協会は2009年に設立され、生徒会役員経験がある大学生を中心として、様々な形で各地の生徒会活動への支援を実施してきた。こうした活動を継続しつつ、今後は「新しい生徒会活動の創造や支援」を目指し、生徒会活動についての調査、学校運営や地域行政への生徒会参画モデルの構築、主体性と協働性を身に付ける“Active Learning for Citizenship”としての生徒会活動のプログラム作り等に取り組んでいる。
現在、当協会には、生徒会活動の経験がある社会人や大学生、高校生が多く参加している。さらに顧問として、東京大学教授・慶應義塾大学教授の鈴木寛氏、東京大学大学院教育学研究科教授の小玉重夫氏、学習院大学文学部教育学科教授の長沼豊氏、国際医療福祉大学教授の川上和久氏を迎え、教育学や政治学等の専門的な知見から助言もいただいている。社会全体で生徒会活動に取り組む生徒を支援する幅広いネットワークを構築し、「新しい生徒会」を創造するための環境整備に挑んでいきたい。
ところで、私はなぜ「生徒会活動支援」という分野に携わることになったのか。そこには、シティズンシップ教育をテーマに活動してきた経験が密接に関わっている。
「当事者性」を育み「参画」を促すドイツの生徒会
これまで約10年にわたり、高校現場やNPO活動等を通じて、「若者の社会参画とシティズンシップ教育」に取り組んできた。その中で気が付いたことは、若者が様々な社会課題について「他人事」ではなく「自分事」として引き受ける、いわゆる「当事者性」を身に付けるためには、「参画」の意義と責任を実感し、「自己効力感」(自分が行為の主体であることへの自信や有能感)を高められるようなシティズンシップ教育のプログラムが重要ではないかという点だ。学校でのシティズンシップ教育が、投票行動を含む実社会での参画に繋がるかどうかはこの点に影響されるのではないかと考えるからである。とは言え、「模擬投票」や「模擬議会」等のプログラムは、これまでの学校教育では扱われにくかった現実の政治や社会問題について考える機会としては有意義である一方で、取り組む生徒たちが、テーマについての「当事者性」を持って参画し、そのプロセスで「自己効力感」を高めるにはやや不十分なのではないか、という疑問があった。
そんなことを考えていた2014年9月、18歳選挙権の実現を推進してきたNPO法人Rights(現・副代表理事)の「ドイツスタディツアー」に参加し、ベルリンの「生徒会支援協会」を訪問した[i]。ここでは、生徒会活動に必要なプロジェクトマネジメントや司会の方法等を学ぶ「生徒会コンサルタント養成研修」を企画しており、修了した生徒は生徒会活動に関して生徒向けのセミナーを催しているという。ドイツでは、どの州でも学校における生徒参加が非常に重視されており、生徒は生徒会を通じて学校運営に一定の影響力を行使できる。具体的には、各学級からクラス代表が選出され、生徒総会に参加し、生徒総会からは教員会議や保護者会、「学校会議」に生徒代表を送り込む。この会議では、カリキュラムや授業時間等について、生徒代表の要望が採用されることもある。さらに、各学校における生徒代表は、州の「地域生徒会」を構成し、教育行政にも影響を及ぼす。つまり、ドイツの学校では、生徒は生徒会を通じて、自分たちに身近な「学校生活」の意思決定過程に参画できるばかりか、場合によっては、「教育行政」の意思決定過程にも参画することが可能になっている。驚くべき生徒の「参画」の仕組みと「当事者性」を育むプログラム内容である。
生徒会をシティズンシップ教育として機能させるために
ドイツでの調査を経て、生徒が「参画」を実感できるシティズンシップ教育のヒントは生徒会活動にあるのではないかと考え、私は当協会の理事長の一人に就いた。もちろん、ドイツの事例を参考にして、日本で同様の仕組みを検討することは、両国の歴史や制度等が異なる点も含めて簡単ではない。私自身もかつて中学校や高校では生徒会長として生徒会活動に取り組んだが、学校運営や教育行政までに参画することはできなかったため、「当事者性」を育むことに苦慮した記憶がある。もちろん、学生運動を経験している日本では、意思決定過程に生徒を参画させることはなかなか難しいし、当協会としてもそれを彷彿させるような生徒会活動支援を目指しているわけではない。
しかし、少なくともドイツでは、生徒会活動は生徒が「参画」の意義と責任を実感し、「自己効力感」を高めることで「当事者性」を育むシティズンシップ教育として機能していた。日本においても本来、生徒会活動は学校教育で「シティズンシップ」を育成する役割の一翼を担っているはずだ。「参画」と「当事者性」をキーワードに、生徒会活動への支援や新たな生徒会モデルの構築を通じて、シティズンシップ教育としての生徒会活動のあり方を追求していきたい。
参考
- 小串聡彦・小林庸平・西野偉彦・特定非営利活動法人Rights(2015)、『ドイツの子ども・若者参画のいま~特定非営利活動法人Rightsドイツスタディツアー報告書』
【文】西野 偉彦(一般社団法人生徒会活動支援協会 理事長)
【写真】ドイツ現地視察で訪れた学校におけるヒアリング(撮影:荒井 翔平/一般社団法人生徒会活動支援協会 理事長)
投稿者プロフィール

- 1984年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。専門は18歳選挙権・シティズンシップ教育(主権者教育)・若者の政治参加。2010年4月(公財)松下政経塾に入塾し、塾生(第31期生)・研修局研修主任・政経研究所研究員。2024年7月(株)第一生命経済研究所に入社し、現・ライフデザイン研究部主任研究員。2016年4月より慶應義塾大学SFC研究所上席所員を兼務。(一社)生徒会活動支援協会では、理事長(9年間)を経て2024年5月より副理事長。神奈川県教育委員会にて、2016年5月より「小・中学校における政治的教養を育む教育」座長、2022年7月より「かながわ元気な学校ネットワーク推進会議」委員も務めている。国・自治体・学校での講演、メディア出演多数。
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